256『さよなら、ニルヴァーナ』/窪美澄/文藝春秋/1,500円+税外部リンク 
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神戸児童連続殺傷事件をひきおこした少年Aは社会復帰を果たし、現在は名前を変えて世の中で働いているそうです。
今回の窪さんの小説は、この事実をもとに、娘を殺された家族、美少年であった少年Aに恋焦がれる少女、作家への夢を捨てきれずに、さまよう人生のなかで少年Aを見つける女性、そして加害者である少年A自身の生い立ちを運命的に紡ぎ、事件のその後を描いた物語となっています。
著者が参考文献に挙げている『少年A矯正2500日全記録』(文春文庫)の解説で、ジャーナリストの有田芳生氏は「神戸事件が人々の記憶から遠く、風化して久しい」と述べています。
風化していた私自身もハッとさせられ、この窪さんの小説からは、当事者の悲しみは全く風化することはないということを、強く感じました。

初読では、とかく少年Aのセンセーショナルな犯行や行動心理に目がいきがちで、章ごとに個別な物語という印象を持ちますが、2回、目を通して読むと、一気に風景が変わります。彼がいかに自分の人生と世界に折り合いをつけて歩んでいくのか、その過程が浮き上がるとともに、二人の女性との関係が運命的に重なってきます。

窪さんが導き出した結末にも驚かされる場面があり、彼女の小説家としての宣言を打ち出した骨太な小説として、多くの読者に届いてほしいおすすめの本です。

文/ アトレ亀戸店・TH
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