681『喜嶋先生の静かな世界』/森博嗣/講談社/690円+税外部リンク 
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「喜嶋先生ほどクリーンでサイレントに生きている人を、僕は知らない。」(p346)

異動のため亀戸店での最後の本の泉となりましたが、私の好きな小説をご紹介したいと思います。森博嗣の『喜嶋先生の静かな世界』です。

大学の助教である喜嶋先生の研究室に卒論生として配属になった「僕」。大学の授業にまったく失望していた「僕」が、喜嶋先生の研究者としての生き方、言葉にふれていく中で、学問とは何か、研究とは何かを少しずつ感じ取っていく物語です。
自らが名古屋大学助教授であった森さんは、エッセイ「学ぶ理由」において、「現在の大学(の多く)は単なるスクールに成り下がってしまったと思えてしかたがない。ほんの少し大学の雰囲気を残す唯一の例外は卒業研究だろうか」と述べています。

私自身の学生時代を振り返ってみても、卒論のゼミでは、「オリジナリティ」という言葉がよく聞かれました。研究とは教科書にはもちろん、まだ、誰もが導き出していない理論を論文として打ち立てることです。卒業論文、修士論文、博士論文という段階を経て、一人の研究者としてスタートラインに立てるのです。

この小説で描かれているのは、研究内容ではなく、そのプロセスに現れる人生哲学のようなものです。アリストテレスやプラトンの問答集に近い印象です。喜嶋先生と「僕」の静かな思考のやり取りは純粋で、エキサイティングなものに満ち溢れています。

「学問には王道しかない」という、喜嶋語録も、強く美しく響いてきます。

「仕事と手法が与えられたとき、それを的確に解決できるのが、学士。
仕事を与えられたとき、手法を自分で模索し、方向を見定めながら問題を解決できるのが、修士。
そして、そもそも、そのような問題を与えることができるのが博士である。」
という言葉は私の心に残る森語録のひとつです。

文/ アトレ亀戸店・TH
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