image『声』/アーナルデュル・インドリダソン:著 柳沢 由実子:訳/東京創元社/1,900円+税外部リンク 
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アイスランドが生んだミステリの巨人、インドリダソンの新作。前作、『湿地』、『緑衣の女』ともにこの作品も度肝を抜く面白さです。

もともと翻訳物ミステリが大好きな私は、いろいろな作家の作品に手を出すのですが、その中でも、インドリダソンの作品は翻訳物にしては読みやすく、良質のミステリでありながら、心理描写にも長けています。1作めの『湿地』を読んだ時から、このミステリ作家は、只者ではないと思い、2作めの『緑衣の女』で世界で一番大好きな作家となりました。
インドリダソンは、アイスランドのレイキャビックの生まれ。外国なのに殺人発生率が日本のように低く、ニシツノメドリ(パフィン)が海辺の崖に巣を作る、そんな国で生まれたミステリ。島国ならではの閉塞感が、どこか日本人の感覚に似ている、だから余計に惹かれるのです。

今回の舞台も、レイキャビック。外国人観光客が泊まりにやってくる大きなホテルの地下室で、サンタ姿のドアマンが殺害されているのが、発見されます。主人公警察犯罪捜査官エーレンデュルは、殺された男の過去を洗います。

殺された男の名前は、グドロイグル・エーギルソン。ホテルの地下室に住み込み、ドアマンとして長年静かに暮らしていた中年男の過去は、なんと、かつて多くの人をその声で魅了した合唱団の“子どもスター”でした。

ボーイソプラノの少年合唱団のスターといえば、ちょっとした子役とか、チビッコモデルとは違う扱い方で、北欧では大スター並みの扱いだったのではなかったのでしょうか。しかも、グドロイグルは、父も姉もいたにもかかわらず、倉庫のようなホテルの地下室で長年ドアマンとして住み続け、悲しい最期を迎えなければなりませんでした。

人の人生には、いい時とわるい時があって、うまく帳尻が合うようになっているといいますが、子どもスターに一体何が起き、どうして栄光のスターの場所から、転落していかなければならなかったのでしょうか?

グドロイグルの家族の物語と、エーレンデュルの子供時代と今の家族と、もう一つの父と息子のサイドストーリー。この4つの家族の話が絡まりながら、捜査は進行していきます。それぞれの家族のかたちと子どもスターとして子供時代を過ごさなければいけなかったグドロイグルの苦悩。家族が家族のまま、ずっと幸せに暮らしていくことの難しさと大切さを考えさせられました。

全世界、エーレンデュルシリーズ、1000万部突破の底力。インドリダソンの魅力に、はまることお約束いたします。北欧の巨人の次の作品にも期待大、アイスランドももっと知りたい国になること間違いなしです(椎名誠さんの『アイスランド 絶景と幸福の国へ』日経BPは、イチオシです)。

ミステリで、人生と新しい世界を知る。そんな秋の夜長をお楽しみください。

文/ 伊勢佐木町本店・AS



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