kitra『キトラ・ボックス』/池澤夏樹/KADOKAWA/1,700円+税外部リンク 
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ミステリは謎解きなので、事件や問題が起きる。
その性質上、読後謎が解けた達成感はあっても、心が開けて晴れやかな気持ちになるということは少ないと思う。でも、これはそういった珍しい読後感を持つミステリだ。

考古学ミステリである。飛鳥時代、日本が国の形を整えつつあった時、それに必要な知識を命の保証もなく、唐に学びに行った人々の遺物。
それを研究する大学準教授・藤波三次郎と、共同研究をするウイグルのシルクロードの街から来た研究生・美しく内気な女性、可敦(かトゥン)。ところが、研究の途中、可敦が何者かに誘拐される。
禽獣葡萄鏡は、何故奈良と瀬戸内海の神社とウイグルに同じ鋳型からとられたものがあったのか。
可敦を誘拐したのは何者なのか。

そして可敦を助けようと協力するのが、三次郎の同僚で元カノの美汐。そして以前美汐が事件の渦中にあったとき、追っていた公安の警察官や新聞記者たち。
時間軸も飛鳥時代と現代と、はろばろとしているが、誘拐の謎の設定もウイグル・チベット・中国の関係までからみ、大きい。悠久の時と、広大な大地。
可敦に協力する人々は、殆どが美汐が巻き込まれた事件を描いた、前作『アトミック・ボックス』に登場した人々。『アトミック・ボックス』も、テーマが大きく、女性である美汐がほとんど単独で国家の鼻をあかす、壮快な物語でした。
この『キトラ・ボックス』も古代の謎解きと、国際性を加味した現代の謎解きが絡み合い、柄の大きい気持ちの良いミステリです。
 
文/ アトレ目黒店・MT

atmicbox
『アトミック・ボックス』
池澤夏樹/KADOKAWA 角川文庫/1,000円+税
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