第157回直木賞候補の5作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。

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悠木 さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。

野口 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。

平尾 毎度言ってるな。

悠木 今回は、候補作家5人中、2人が初候補です。

平尾 そういう回って予想が難しいんだよな。

悠木 選考委員の先生方の評価が分かりませんからね。

野口 今回はもう私たちの好みで選んじゃいましょうよ。

悠木 怒られますよ。それでは、早速予想してまいりましょう!

候補の5作品をすべてご紹介しています! 続きはこちら
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鼎 談 参 加 者
平尾才助 (55歳) --- 書店員歴33年
悠木和雅 (44歳) --- 書店員歴15年
野口魚子 (33歳) --- 書店員歴 6年


本命・あとは野となれ大和撫子
宮内悠介 『あとは野となれ大和撫子』
みやうち ゆうすけ あとはのとなれやまとなでしこ

KADOKAWA/1,600円+税
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野口 ダントツで面白かった作品です! 今回は私のわがままを通させてもらいます。

平尾 人を食ったようなタイトルだな。これだけでもう受賞はないだろうって思っちゃう。

野口 いいじゃないですか! 選考会後のNHKニュースで桑子アナにこのタイトルを読んでほしいです。

悠木 さて、宮内悠介は3度目の候補です。

野口 2012年上半期に『盤上の夜』で、2013年上半期に『ヨハネスブルグの天使たち』で候補になっていますね。

平尾 その後、芥川賞の候補になった時もあったよな。

悠木 はい。2016年下半期に『カブールの園』詳細 で芥川賞候補になっています。

平尾 あれは驚きだったな。

野口 ふ~、あぶないあぶない。芥川賞側にあやうく宮内さんを持って行かれるところでした。

平尾 そんなに対抗意識持ってんのか!

野口 SFも、純文学も、そして今回の候補作のようなエンターテインメントも書ける作家ということですね。

悠木 今回の作品は、中央アジアの架空の小国・アラルスタンが舞台です。大統領が暗殺され、隣国の侵略を恐れた政治家たちは逃亡、後宮に暮らしていた少女たちが臨時政府を立ち上げる、という内容です。

野口 その少女たちは、表向きは大統領の愛妾ということになっていますが、実は将来を嘱望され高等教育を受けていた優秀な人材達だったという設定です。ひとりひとりのキャラが立っています。

悠木 民族紛争、環境問題、宗教対立など深刻なテーマを内包していながらも、王道のエンタメに仕上げているところが実に見事です。

平尾 そこなんだよ。エンタメ色が強すぎて選考委員の先生方に軽く扱われるんじゃないか?

野口 逆に、『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』と、過去に難解な候補作を読んできた選考委員の先生方は、今回の候補作が一番分かりやすかった、これなら直木賞に推せる、と思われるのではないでしょうか。

平尾 野口、お前、さりげなく失礼なこと言ってるぞ。

野口 「大切なのは、いまを生きている人々。そしてもっと大切なのは、千年後を生きる人々」というセリフに胸を強く打たれたんです。世界中の人々、特に、トランプやプーチンにも読んでほしい小説です。

平尾 大きく出たな。



月の満ち欠け
佐藤正午 『月の満ち欠け』
さとう しょうご つきのみちかけ

岩波書店/1,600円+税
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悠木 佐藤正午は今回の候補作家の中で最年長です。61歳です。

野口 1983年、28歳の時に『永遠の1/2』詳細 でデビューして以来、直木賞の候補になるのは初めてですね。

平尾 いろんな意味で今回一番の驚きだな。

野口 版元が岩波なのにも驚きました。

悠木 岩波書店からは25年ぶりの候補作とのことです。

平尾 佐藤正午には根強いファンがいるからな。今回のノミネートを喜んでいる読者も多いんじゃないか。

野口 佐藤正午作品に惚れ込んだ岩波書店の編集者が執筆を依頼して、18年待って刊行することができた作品とのことです。編集者も感無量でしょう。

平尾 寡作の作家だからな。執筆に対するそういうスタンスを支持するファンも多いだろうな。

野口 不器用な…、高倉健のような生き方ですね。

悠木 さて、本作のテーマは「生まれ変わり」です。愛する人に再び会うために輪廻転生を繰り返す女性をめぐる物語です。

野口 あり得ない!と思いつつも夢中になって読んでしまうのは、著者の筆力の成せるわざだと思います。

悠木 後半には驚くべき展開も待っていて、伏線のはりめぐらせ方も構成も上手いと感嘆しました。

平尾 でもよぉ、ちょっと気味悪いよな。幼い少女に「知ってるんだよ、私は」なんて言われたら、オレなら拒否反応起こしちゃう。登場人物の中の一人みたいに。

悠木 そこですね。選考委員の先生方が「生まれ変わり」という設定をまず受け入れられるかどうかで受賞するか否かが決まると思いますね。

野口 台風の目というか、最も注目される作品ですね。

平尾 オレ、伊集院静先生はこの作品を推すと思うな。



敵の名は宮本武蔵
木下昌輝 『敵の名は、宮本武蔵』
きのした まさき てきのなは、みやもとむさし

KADOKAWA/1,600円+税
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野口 木下昌輝は2度目の候補ですね。

悠木 2014年下半期に『宇喜多の捨て嫁』で候補になりました。

平尾 あの時は選考委員の先生方の評価が高かったんだよな。

野口 はい。特に、高村薫先生と東野圭吾先生が激賞なさっていました。

悠木 歴史・時代小説プロパーではない先生方からの評価が高かったということですね。

野口 時代小説って、思わぬところでケチがつきますよね。

平尾 うむ、確かに。選考委員には浅田次郎先生や宮城谷昌光先生といった歴史・時代小説の大御所がいらっしゃるからな。当然、評価も厳しくなるだろうな。

野口 しかも今回は歴史上でも超有名人物、宮本武蔵がテーマです。宮本武蔵と言えば吉川英治版のイメージが既に定着していますよね。

平尾 この作品では、あくまで武蔵と戦って敗れた敵側の視点から描かれた武蔵だがな。

悠木 ある意味、新しい武蔵像が創られましたよね。吉川英治作品へのオマージュとしてもかなりよく出来ていると思います。

平尾 武蔵の父、宮本無二斎の物語でもあるな。

悠木 読み進めていくうちに武蔵の出生の秘密が明かされていきます。連作短編としても上手いです。

野口 一編一編、とても悲しさを感じさせられました。

悠木 木下さんらしい短編集ですね。



会津執権の栄誉
佐藤巖太郎 『会津執権の栄誉』
さとう がんたろう あいづしっけんのえいよ

文藝春秋/1,450円+税
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悠木 初候補です。

野口 恥ずかしながら、初めて知った作家の方です。

悠木 これがデビュー作だからな。

平尾 いやいやいや、すごい作家が出てきたもんだな。浅田次郎先生の評価が今から楽しみだぞ。

悠木 舞台は戦国時代の奥州。鎌倉時代から約400年間、会津を支配していた芦名家の滅亡を描いています。

平尾 またマイナーなところ突いてくるよな。たまらんな。

悠木 芦名家では跡継ぎが次々に亡くなり、佐竹家から養子を迎えることになります。そこに伊達政宗が攻め込んできます。

平尾 ま、芦名家が滅びたのは内側からなんだけどな。裏切りとか日常茶飯事でな。

悠木 恐れや弱みといった心の暗闇が人間の行動の大部分を支配する、ということがよく描かれています。

野口 心理描写が巧みですね。ああ、この復讐心わかるわかる~と思いました。

平尾 お前、意外と暗いんだな。

悠木 今回はデビュー作ということもありますし、受賞は難しいかもしれませんが。

野口 「もう一作見たい」ってやつですね。

平尾 まあ、慌てなさんな。あんまり早く受賞すると楽しみがなくなっちゃうからな。

野口 葉室さんの時のように「次回作こそは!」と期待する楽しみですね。



BUTTER
柚木麻子 『BUTTER』
ゆずき あさこ ばたー

新潮社/1,600円+税
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野口 柚木麻子は4度目の候補です。

悠木 本書は、2009年に発覚した首都圏連続不審死事件を題材にしています。

野口 木嶋佳苗被告の事件ですね。多額の保険金がかかった男が連続して不審死した…。

悠木 本書は、木嶋佳苗ならぬ梶井真奈子(カジマナ)の取材を重ねる週刊誌の女性記者の視点で描かれています。

平尾 なぜこの事件がこれほど世間の耳目を集めたかというと、犯人が若くも美しくも痩せてもいない女性だったから。こういってしまうと身もふたもないがな。

野口 こういうテーマは柚木さんお得意ですね。

悠木 この事件の関係者たちは「男らしさ」「女らしさ」を強く意識しすぎて、生き辛さを感じていたのではないかと考えた著者が、その点を深く掘り下げて書いています。原稿枚数も今回の候補作の中で最多です。

野口 不寛容な社会の中で何らかの役割を果たそうと努力し続けて、疲れている方に是非ご一読いただきたいですね。

平尾 話は変わるが、エシレのバターかけごはんが出てくるだろ。あれ、旨そうだよな。

悠木 私、やってみました。すごく美味しかったですよ。この作品は「食」がテーマでもありますね。

野口 食べるって、すごくエネルギーが要る行為で、生きることと同義なんだなってあらためて思いました。

悠木 男も女も関係なくね。

野口 はい。贅沢するんじゃなくて、きちんと食事をして、他人からの評価ではなく自分が満足できる程度の豊かな生活を送りたいって、この作品を読んで強く感じました。

平尾 今回、受賞してもおかしくないんじゃないか。話題性のある作品だし。

野口 話題性がありすぎるのが難点かもしれません。実際、木嶋被告は本書に対して相当怒っているみたいです。

悠木 柚木さんを高く評価している桐野夏生先生の評価が気になりますね。


平尾 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。

野口 出会えて良かったと思える作品が今回もありました!

悠木 皆様にも是非、全作品読んで予想していただきたいですね。

野口 第157回直木賞、発表は2017/7/19(水)夜です!!

平尾 「該当作なし」だけは何としても避けてほしいな。


文/有隣堂 加藤泉

第157回直木賞は

佐藤正午『月の満ち欠け』 が受賞しました

佐藤先生、おめでとうございます!!

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