→ 「第159回 直木賞 大予想!」を公開いたしました
第158回直木賞候補の5作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。

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悠木 さあ、直木賞の季節がやってまいりました。

平尾 早いな。年をとるにつれて季節の移り変わりがますます早く感じられる。

野口 私達は年をとりませんけどね。

悠木 今回は予想するのが本当に難しいですね。

平尾 そうよ。今回に比べたら前回なんて屁のカッパだったな。

野口 ハズしましたけどね。

悠木 今回はまず最初に、候補作5作から3作に絞りました。そこから実に悩みました。

平尾 候補作家5人中、2人が初候補で、その2人以外の3作だろうな、ってとこまでは意見が一致したんだよな。

悠木 そこからが本当に難しかったですね。甲乙つけがたくて。

平尾 レベルが高いってことだな。

野口 それでは、早速予想してまいりましょう!

候補の5作品をすべてご紹介しています! 続きはこちら
↓↓↓    


鼎 談 参 加 者
平尾才助 (55歳) --- 書店員歴33年
悠木和雅 (44歳) --- 書店員歴15年
野口魚子 (33歳) --- 書店員歴 6年


彼方の友へ
伊吹有喜 『彼方の友へ』
いぶき ゆき かなたのともへ

実業之日本社/1,700円+税
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悠木 伊吹有喜は2度目の候補です。

野口 第151回(平成26年上半期)の時に『ミッドナイト・バス』で候補になっています。

平尾 あの時は、候補になったこと自体に驚いたけどな。今回は堂々と候補に入ったと言えるな。

野口 はい。伊吹さんの持ち味と題材がドンピシャではまった素晴らしい作品です。

悠木 この作品の舞台は、昭和12年から20年までの東京の出版社です。

平尾 『乙女の友』という少女雑誌の編集部で働く佐倉ハツという女性が主人公だな。

悠木 実際にあった『少女の友』という雑誌がモデルになっていますね。

野口 中原淳一の表紙で有名な雑誌ですね。版元も本作と同じ実業之日本社で、9年前に『「少女の友」創刊100周年記念号』という特別版が刊行されました。今でも根強い人気があるんですね。

悠木 天才的な編集長や画家、作家たちに囲まれながら仕事を覚えていくハツの成長物語と言えますが、雑誌づくりにかける部内全体の情熱や、戦中という時代の空気が丁寧に描かれた作品だと思います。

平尾 登場人物たち、特に主人公ハツの誠実さ、純粋さといった魅力がよく伝わってくるな。

悠木 第143回(平成22年上半期)直木賞を受賞した中島京子さんの『小さいおうち』のイメージに近いですね。

野口 読者のことを「友」と呼び、彼方にいる友にも最上のものを届けたい、という思いは選考委員の先生方の胸にも響くと思います。

悠木 実は今回、別の作品を本命に予想してこの原稿を書いていたんですが、書きながら何か違うぞ、何か違うぞ、と思って、本作を本命にして書き直したんです。

野口 たとえハズれてもこの作品を本命に推さないと後悔すると思ったんですよね。

平尾 是非、読者の皆様にもお読みいただきたいな。



銀河鉄道の父
門井慶喜 『銀河鉄道の父』
かどい よしのぶ ぎんがてつどうのちち

講談社/1,600円+税
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悠木 門井慶喜は3度目の候補です。

野口 第153回(平成27年上半期)に『東京帝大叡古教授』で、第155回(平成28年上半期)に『家康、江戸を建てる』で候補になっています。

平尾 候補作の推移を見ても、着実に力をつけている作家だよな。今回受賞しても全然おかしくない。

悠木 いろいろなジャンルを書けるというのも強みですね。

野口 今回は宮沢賢治の父・政次郎を題材にしています。ミステリーだけでなく歴史・時代小説も書けるんだと思っていたらこういった正統派の伝記小説も手がけられて、ひきだしの多い作家だなと思いました。

平尾 本作を書くにあたって、ものすごく取材したんだろうなと思うんだけど、そういった努力を、読んでいて感じさせないところがすごいよな。するする入ってくるというか。

野口 はい。私の中の宮沢賢治像がガラガラと音を立てて崩れていきました。もっとこう、清貧のイメージがあったんですけど。

平尾 とんだドラ息子だよな。この本を読むと。

悠木 はい。地元の名士であり質実剛健で几帳面で家族思いの父と、父を目標としつつも到底届かないと知っている賢治。この2人の関係の妙が見事に描かれています。

野口 賢治の妹・トシもいいですよね。トシが亡くなる場面は胸が痛くなりました。

平尾 有名な詩「永訣の朝」が生まれる場面だな。

野口 「アメニモマケズ」はどこで出てくるんだろうと思っていたら、一番いいところで出てきますね。ここもグッときます。

悠木 「肉や骨はほろびるが、ことばは滅亡しないのである」。この文言を実感する作品です。



火定
澤田瞳子 『火定』
さわだ とうこ かじょう

PHP研究所/1,800円+税
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野口 澤田瞳子は2度目の候補ですね。

悠木 第153回(平成27年上半期)、『若冲』で候補になった時は辛い評価が多かったのですが、宮部みゆき先生は高く評価なさっていました。

平尾 今回はこの作家の真骨頂とも言える奈良時代を舞台にした作品だ。満を持して候補になったって感じだな。

悠木 この時代を書ける作家は少ないですからね。

平尾 ああ。オレはこれが本命だと思うぞ。

野口 天平9年(737)、天然痘が大流行した寧楽(なら)が舞台です。陰謀によって殺された長屋王の呪いで藤原四兄弟が次々と病死していったと言われるあの頃ですね。

悠木 その伝染病に立ち向かった施薬院の綱手やその助手・名代、特効薬を見つけだす諸男など、複数の医療関係者の視点から描かれた長編です。

野口 医療をテーマにした時代小説というだけでなく、かつて諸男を陥れたのは誰か?などミステリー的な要素もあります。

平尾 諸男が牢獄で辛酸をなめるくだりは『モンテ・クリスト伯』なみの凄まじさだぞ。

悠木 混乱に乗じてデマをでっちあげ、人心を操る悪徳商法の輩などは現代にも通じるものがありますね。

野口 はい。恐怖心から外国人排斥運動に向かっていってしまう流れは、今の時代にもあり得るなと思いました。

平尾 本当にうまくできた作品なんだよな。何度も言うようだがオレはこれが本命だと思うぞ。

野口 ここまでの3作、どれが受賞しても驚かないですね。

平尾 いや、本当に難しいんだよ。今回は。



くちなし
彩瀬まる 『くちなし』
あやせ まる くちなし

文藝春秋/1,400円+税
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悠木 初候補の作家です。

平尾 初めて読んだけどよぉ、不思議な世界観を持った作家だな。

悠木 はい。表題作は、自分の身体の一部をパーツのように外して人に贈ることのできる世界の話。主人公は不倫相手の男に別れを切り出され、かわりに腕をもらいうけます。

野口 難民の子供をお金で雇って「人形遊び」ができる話(「薄布」)や、運命の相手に出会うとその人の身体に咲く花が見える話(「花虫」)など、ファンタジックな短編が7編収録された短編集です。

悠木 不条理な設定なのに、現実の世界の辛らつな批評にも受け取れる作品ばかりです。

平尾 かと思うと「愛のスカート」みたいに極めて真っ当な恋愛小説も入ってたりしてな。

野口 「愛なんて言葉がなければよかった。そうしたら、きっと許してあげられたのに」など、鋭い言葉もたくさんありますね。

悠木 この作家の感性には目を見張るものがあります。

平尾 いずれ直木賞作家になる逸材だろうな。今回はお披露目といったところだな。



ふたご
藤崎彩織 『ふたご』
ふじさき さおり ふたご

文藝春秋/1,450円+税
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悠木 こちらも初めての候補。彩瀬まるさんと同じ昭和61年生まれです。

平尾 昭和60年代なんて、つい最近生まれた人だと思っちゃう。

悠木 今回の候補作家の平均年齢は39.2歳と、とても若いです。

野口 藤崎彩織さんは4人組バンドSEKAI NO OWARI、略してセカオワのメンバーとして有名な方ですね。

平尾 セカチュー?

野口 平尾さん、古いですよ。

悠木 この『ふたご』はデビュー作でいきなり候補になりました。

野口 主人公の夏子と片思いの相手・月島が中学生だった頃から物語は始まります。この月島という男子が精神的な疾患を持っていて途中で発狂してしまったりするんですが、彼との複雑な関係がとても丁寧に描かれています。

悠木 第二部になると、音大に入学した夏子は、バンドを結成すると突然言い出した月島に巻き込まれていきます。

平尾 なあ、この小説って、そのセカ…オワってバンドに実際にあった話なのか?

悠木 すべてが事実と言ってしまうと語弊があると思いますが、モデルになっていることは確かだと思います。

野口 正直に言うと、話題作りのためのノミネートだろうと思って色眼鏡で読み始めたのですが、大切な人を支え続けることの苦しさと幸福感が痛いほど伝わってきて、かなり読みごたえがありました。

平尾 オレは痛々しさだけが残ったな。

野口 それはあれですよ。自分より大切だと思える人がいるかどうかですよ。いる人は共感できると思いますよ。救いの書になると言ってもいいかもしれません。

平尾 あいたたた。

悠木 文章も上手いですしね。次の作品を見てみたいということになるのではないでしょうか。


平尾 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。

野口 出会えて良かったと思える作品が今回もありました!

悠木 皆様にも是非、全作品読んで予想していただきたいですね。

野口 第158回直木賞、発表は2018/1/16(火)夜です!!


文/有隣堂 加藤泉

第158回直木賞は

門井慶喜『銀河鉄道の父』 が受賞しました

門井先生、おめでとうございます!!

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