911『生きるとか死ぬとか父親とか』/ジェーン・スー/新潮社/1,400円+税外部リンク 
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18年前に64歳の母を亡くし、それ以来父と二人家族となった著者。

母の「母親」以外の横顔を知らないことに気づき、それを悔いて、父親には同じ後悔をしたくないとの思いがきっかけとなった本著は、エッセイであり現代社会の一端を映すかのようなドキュメンタリーとも言えるだろう。

二十数年前に読んだ向田邦子の『父の詫び状』を彷彿とさせた。
精神的支柱であり、家族間の緩衝剤だった聡明な母。
個性的の一言では表せない、波瀾万丈な人生の波を、老いてなお飄々と乗り越えようとする父。
主観と客観のバランスが良く、人気ラジオパーソナリティである理由を裏付けるが如く著者の多角的な視点で綴られる一(いち)家族の様々な側面に、自身の家族の姿を重ねる読者も多いはずだ。
そしてそれは、著者と同じ年だからか、多少のベクトルの違いはあるとはいえ、偶然にも重なる部分が多い奔放な父を持つ身だからか、私自身も同様であった。
 
そもそも家族とは何なのか。
年齢を重ね、どのようにその関係性は変化するのか。
互いの老後はどう過ごすのか。
家族という単位に甘えて見たくない部分に蓋をしてはいないか。
本当にこのままで後悔しないのか。
全く考えなかったわけでもないがなんだかんだと先送りしてきた自身への問いが、読み進めるにつれ次々と心に突き刺さった。
その痛みに耐えるには何か行動を起こすほかないと、今気づけたことはある意味幸せに思う。

最後に蛇足ながら……年齢を重ねていくうちに気づけば「車」という同じ趣味を持ち、若干距離の縮まった感のある私と父。
今年の父の日には、毎年恒例の確実に喜んでくれる贈り物と共に添えた手紙に、初めて「いつか私の運転でドライブに行きましょう」という一言が書けた。
間違いなく、この作品の後押しである。

文/ アトレ恵比寿店・SH


『父の詫び状』
向田邦子/文藝春秋 文春文庫/570円+税
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