第159回直木賞候補の6作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。

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悠木 さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。

平尾 ああ。候補作が発表になった日の朝、ギョっとしたぞ。もうそんな時期か!って。

野口 毎回言っていますが、今回は予想するのが本当に難しいですね!

平尾 今回の候補作は、なんというか、全体的にずっしり重かったな。

野口 今までも軽い候補作なんてなかったですけどね。

悠木 平尾さんのおっしゃることはよく分かります。読みごたえのある作品が揃いました。

野口 確かに、読み終えた後、呆然としてしばらく何も手につかなくなった作品がありました。

悠木 今回は、まず初めに本命を2作に絞りました。

平尾 ああ。この2人のうち、どちらかだろうなってことで意見が一致したんだよな。

悠木 そこからが本当に難しかったですね。甲乙つけがたくて。

平尾 どんなところで難癖がつくか分からないからな。

野口 それでは、早速予想してまいりましょう

候補の6作品をすべてご紹介しています
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鼎 談 参 加 者
平尾才助 (55歳) --- 書店員歴33年
悠木和雅 (44歳) --- 書店員歴15年
野口魚子 (33歳) --- 書店員歴 6年


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湊かなえ 『未来』
みなと かなえ みらい

1,680円+税/双葉社
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悠木 湊かなえは3度目の候補です。

野口 第149回(平成25年上半期)の時に『望郷』で、第155回(平成28年度上半期)の時に『ポイズンドーター・ホーリーマザー』で候補になっています。

平尾 いやぁ、この作品は重かったな。

悠木 主人公章子のもとに、ある日、“未来の自分”から手紙が届きます。いったい差出人は誰なのか……。

平尾 そういうミステリー要素はどうでもいいって感じだったな。読んでてとにかく辛かった。

野口 児童虐待やいじめをテーマにしていますからね。しかも一人称小説。湊かなえ節炸裂、という感じです。

平尾 デビュー作『告白』に通じる、いわゆる“イヤミス”なんだけど、最後に希望を感じさせるところが大きく違うところだな。

野口 はい。登場人物たちの置かれている境遇が過酷すぎて、どうしてこんなに辛い物語を書けるんですか!って湊さんを詰りたくなりましたが、最後まで読んで、これは、湊さんの「覚悟」なんだろうなって思い直しました。

平尾 覚悟?

野口 はい。毎日が辛くて仕方のない人たちに“希望”を届けるのはとても難しいけれど、それでも自分はペンの力で人々の背中を押し続けるという、湊さんの覚悟ですね。

平尾 そうだな。ただ、選考委員の先生方の評価は分かれるだろうな。登場人物たちに共感できる人はなかなかいないだろうからな。

野口 そうですか? 私は大いに共感しましたよ。シャインマスカットを食べるとき「ハイテンション!」って叫ぶところとか。

平尾 そこかい。

悠木 湊さんは2008年に『告白』でデビューして以来、1年に2~3作のペースで作品を書き続けています。しかも、どの作品もベストセラーになっている。これはすごいことですよね。

平尾 直木賞は功労賞的な意味合いもある賞だからな。受賞は大いにあり得るんじゃないか。

野口 『望郷』が候補になった時、選考委員の宮部みゆき先生が、「受け手である私たち読者がベースラインから一歩も動けず、惚れ惚れと見送るしかないようなファーストサーブでエースをとっていただきたいと思います」と評していらっしゃったんですよね。湊かなえの本領発揮と言えるこの作品で是非受賞してほしいと思います。

平尾 いつかは受賞するだろうからな。

悠木 デビュー10年目の節目の年に湊さんが受賞したら、書店もかなり盛り上がると思いますね。



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木下昌輝 『宇喜多の楽土』
きのした まさき うきたのらくど

1,700円+税/文藝春秋
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悠木 木下昌輝も3度目の候補です。

野口 第152回(平成26年下半期)に『宇喜多の捨て嫁』で、第157回(平成29年上半期)に『敵の名は、宮本武蔵』で候補になっています。

平尾 今回の候補作は『宇喜多の捨て嫁』の続編に当たる作品だな。

悠木 そうですね。宇喜多直家から息子の秀家に主人公が代わっています。

野口 『宇喜多の捨て嫁』が候補になった時、選考委員の先生方の評価が高かったのを覚えています。

悠木 そうですね。高村薫、東野圭吾両先生の評価が特に高かったですね。

野口 受賞してもおかしくなかったと思いますが、デビュー作だったので「もう1作見たい」的なアレで見送られた感じでしたよね。

平尾 アレな。

悠木 今回候補になった『宇喜多の楽土』には、11歳で家督を継いだ秀家の苦労が描かれています。

野口 バラバラな家中を統治するだけでも大変なのに、秀吉という大きな存在の下で、どうやって家を存続させていくか、本当に大変だったと思います、秀家……。

平尾 秀吉を一回だけ裏切って、それがバレたと分かるシーン。あの場面は凄いな。ゾクゾクしたぞ。

野口 ヒトの体内でがん細胞が生まれるのは、ああいう時だと思いました。

悠木 クライマックスの関ヶ原の合戦の経緯は意外ではなかったですか?

平尾 確かに、あれ?っと思ったな。新説を採用したんだろうな。

悠木 選考委員の先生方がそこをどう評価するのかがカギになってくると思います。

平尾 あと、ひとつ難点を言うと、前作『宇喜多の捨て嫁』のインパクトが強すぎるってことだな。今回受賞したら、なんであれで受賞させなかったんだって話になるぞ。

野口 木下さんは正統派の時代小説作家でありながら、『秀吉の活』という作品では、就活、婚活、転活、妊活、終活など秀吉の生涯を10の「○活」で表してみたり、『戦国24時 さいごの刻(とき)』という作品では、戦国武将たちが亡くなるまでの24時間に焦点を絞ってみたりと、面白い試みをなさっていらっしゃいます。こういった点も評価されていいんじゃないでしょうか。

平尾 功労賞的なアレな。



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窪美澄 『じっと手を見る』
くぼ みすみ じっとてをみる

1,400円+税/幻冬舎
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野口 窪美澄は初めての候補ですね。

平尾 えっ!そうだったか。もう何度も候補になっている感じがするのにな。

悠木 デビュー作『ふがいない僕は空を見た』の印象が強いですからね。この作品で山本周五郎賞を受賞しています。本屋大賞2位にもなりました。

野口 今回の候補作家の中には山周賞作家が2人もいるんですね。湊かなえさんも平成27年に『ユートピア』で受賞していらっしゃいます。

悠木 今回候補になった『じっと手を見る』は、地方の町で介護施設に勤務する若者たちが主人公の連作短編集です。

野口 薄給の肉体労働に従事する介護士たちの日常を、リアリティ溢れる筆致で描いています。

悠木 タイトルの「じっと手を見る」は、もちろん石川啄木の詩「はたらけど はたらけど猶 わが生活(くらし)楽にならざり ぢっと手を見る」から採っているんでしょう。

野口 舞台となるのが、富士山を間近で見ることのできる地方都市、という設定も上手いですよね。富士山の威容と人間のちっぽけさが対照的というか。なんか卑屈ですみません。

平尾 登場人物たちの覇気の無さというか、諦めにも似た生き方は現代の世相を反映していると言えるな。

野口 高齢化社会の日本ですからね。“老い”に直面する仕事ってやっぱりしんどいと思います。

平尾 「できることが増えていくのが成長で、できないことが増えていくのが老化」って一文があるだろ? これ読んでドーンと落ち込んだぞ。最近、階段がうまく下りられないんだよ。転げ落ちそうになる。

悠木 私は、「人はいつか死ぬのになんで生まれてくるの?」ってセリフが心に残っています。生き様、死に様を考えさせられる作品だと思いました。

野口 それでも最後に、限りある命を持つ人間がいとおしいと感じさせる筆力はさすがですね。

平尾 やっぱり上手いよな。この作品が受賞しても全然驚かないな。



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上田早夕里 『破滅の王』
うえだ さゆり ふめつのおう

1,700円+税/双葉社
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野口 今回の候補作の中には双葉社の作品が2作入っています。双葉社は狂喜乱舞しているでしょうね。

平尾 文春も2作入ってるが、こっちは慣れてるだろうからな。

悠木 上田さんは初候補です。

平尾 初めて読んだけどよぉ。ずっしりきたな。二段組356ページの力作だ。それにしても、この作家ってSFの人じゃなかったっけ。

悠木 はい。過去に小松左京賞や日本SF大賞を受賞している作家です。

野口 今回の候補作はSF色が薄くて、戦争ものと言ってもいいジャンルですよね。

平尾 おお。ここ数年の候補作には、広義の戦争ものが必ず一つは入る感じだよな。前回なら『彼方の友へ』とか、それ以前なら『戦場のコックたち』『また、桜の国で』とかな。オレとしては良い傾向だと思ってる。

悠木 この作品は、戦時中の上海自然科学研究所で研究員として働く青年が、軍の命令で細菌兵器に関わっていくという内容です。

平尾 731部隊の話だよな。去年、NHKスペシャルで見てゾッとしたやつ。

野口 生物兵器の研究・開発や、人体実験を行っていたとされる機関ですね。

平尾 今のような平時に見ると、なんて恐ろしいことを!と思うんですが、戦時中、科学者が良心を持ち続けるのがいかに難しかったか、この作品を読むとよく分かります。

平尾 いや、本当に読みごたえのある作品なんだけどよぉ、後半とっちらかった感じなんだよな。

悠木 確かに、風呂敷を広げすぎた感がありますね。

野口 でも、人間が科学技術とどう向き合うか、真摯に考えさせられる作品でした。

平尾 候補にならなかったら出会わなかった作品だな。出会えてよかったな。



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島本理生 『ファーストラヴ』
しまもと りお ふぁーすとらぶ

1,600円+税/文藝春秋
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悠木 島本理生は2回目の候補です。今回の候補作家の中では一番若い35歳です。

野口 島本さんは芥川賞で3度候補になった後、1度直木賞候補になって、また1度芥川賞候補になっていらっしゃいます。芥川賞も合わせると、6回目の候補です。

平尾 3年前、最後に芥川賞候補になった後、純文学は卒業して今後はエンタメに舵を切るって宣言したんだよな。芥川賞、もう私にかまうな!って。

野口 3回も振っておいて、別のいい人が現れたらまた言い寄ってきて、いい加減にしろ!って私なら思いますね。

悠木 そういうことじゃなくて、ご本人がただただエンタメを書きたくなったんでしょう。法廷ものはずっと書きたいテーマだったようですし。満を持して直木賞の候補に入ったという感じですね。

平尾 就活中の女子大生が父親を刺し殺すという衝撃的な内容だな。

野口 彼女を題材にしたノンフィクションを書くことになった臨床心理士・由紀の視点で、過去、彼女に何があったのかが明らかになっていきます。偶然、由紀の義理の弟が弁護を引き受けることになるのですが、この2人の関係もなかなか複雑なものがあります。

平尾 この作品も読んでて辛かったんだよな。もう、オレに児童虐待ものを読ませないでくれ。

野口 平尾さん、意外とナイーヴですね。

悠木 確かに重いテーマを扱っていますが、今私達が生きている社会において何が問題になっているのかを知るためにも、読んでおいていい1冊だと思います。



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本城雅人 『傍流の記者』
ほんじょう まさと ぼうりゅうのきしゃ

1,600円+税/新潮社
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悠木 本城雅人も初めての候補です。今回は候補作家6人中、初候補が3人です。

野口 『傍流の記者』は大手新聞社に勤める新聞記者を描いた作品ですね。

平尾 この作家、元新聞記者なんだよな。道理でリアリティがあると思ったぞ。

悠木 はい。本城さんは大学卒業後、20年間勤めた新聞社を退社し、現在は作家活動に専念されています。スポーツ新聞の記者としての経験を活かして、プロ野球や競馬をテーマにしたミステリーを書いていらっしゃいます。候補作のように、新聞記者そのものをテーマにした作品もいくつかあります。

野口 得意分野ですね。

平尾 いやぁ、新聞記者って熱いよな。横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』を思い出したぞ。オレだったらこんな職場、耐えられない!

野口 優秀な6人の同期がいて、そのうち1人は家庭の事情で人事畑に異動しますが、あとの5人で社会部長の座を争うんですよね。

悠木 5人それぞれ得意分野があって、「警視庁の植島」「検察の図師」「調査報道の名雲」など異名を持ちます。

野口 他にも、「念仏の鉄」「鉄砲玉のおきん」……。

平尾 おいおい、そりゃ「必殺仕置人」だろ。そうじゃなくて、「槍の又左」とか。

悠木 平尾さんは時代小説の読みすぎです。二人ともふざけないでください。とにかく、この6人のキャラが立ってるんですよ。

平尾 いやしかし、あれだな。同期との争いも熾烈だけど、上司や部下との軋轢も大変そうだよな。

悠木 中間管理職の苦労が感じられますね。

野口 本城さん、池井戸潤さんのような作家になられる気がします。

平尾 確かに。今回はお披露目という感じだろうが、いずれ直木賞作家になってもおかしくないな。


平尾 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。

野口 出会えて良かったと思える作品が今回もありました!

悠木 皆様にも是非、全作品読んで予想していただきたいですね。

野口 第159回直木賞、発表は2018/7/18(水)夜です!!


文/有隣堂 加藤泉

第159回直木賞は

島本理生『ファーストラヴ』 が受賞しました

島本先生、おめでとうございます!!

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