今年は明治維新150年。
大河ドラマ西郷どんは佳境に入り、明治維新関連本は引きもきらずに出版されている。
その中にあって、ひときわ異彩を放っているのが本書・『一外交官の見た明治維新』。
出版は1921(大正10)年、著者はイギリス人外交官アーネスト・サトウ。
サトウが初来日したのは1862(文久2)年。着任直後には生麦事件が起き、攘夷論に拍車がかかる。
その流れは倒幕から王政復古へと続いてゆく。
サトウの下には様々な人が訪れる。
薩摩の西郷も大久保も、長州の桂も伊東も井上も、幕臣の勝も、市井の人々も。
それらの客人と歓談し議論し、共に酒を飲み遊び、その中から日本の情勢を熟知し行く末を見極めるが、どんなにそれらの人々と打ち解けようとも誰にも組せず中立の立場を貫く。
サトウはあくまでイギリス外交官(当時は書記官)の一人としてこの時代に関わった。
たとえ、禁門の変が起ころうとも、蛤御門の変が起きようとも、将軍家茂と孝明天皇が相次いで崩御しようとも、大政奉還があろうとも、明治新政府が樹立しようとも、サトウが精魂尽くしたのは外交問題。
サトウにとって日本国内の動乱は傍流の出来事だった。
倒幕・佐幕関係なく多くの要人と知己を得、歓談・議論を重ねたのは外交交渉の真の主を見極めるためのもの。
故に、サトウは誰に対しても平等で、誰にも肩入れすることも無く、この時代を見定めることが出来た。
こう書くと事実だけが箇条書きのように淡々と記された本だと思われるかもしれないが、サトウが書き記したのは政情のことだけではない。
サトウは日本国内を実によく歩いた。公使に随行して、また、公使の命を受け、鹿児島へ宇和島へ大坂へ新潟へと赴き、その土地の様や旅の様子を記録した。
大坂から横浜まで陸路で帰途に着いた際の模様は読んでいてわくわくする。
溢れるほどの好奇心で近づく人々や道中の出来事を生き生きと、楽しげに描写する。
巷では、倒幕だ、王政復古だと騒々しいが、そんな政情はどこ吹く風と、庶民には庶民の幕末があったことがわかる。
横浜の居留地を出て江戸に居を構え日本人の用人達と家族のように暮らし、流暢な日本語を武器に多くの人と
交わり政治に通じたアーネスト・サトウ。
異国の20代の青年が体験した明治維新。
読めば読むほど、時代の空気感が伝わります。下巻も合わせてどうぞ!
文/ たまプラーザテラス店・MH