257『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?』/トレバー・ノア/英治出版/1,800円+税外部リンク 
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「自虐ネタ」という笑いのとり方があります。
自身のコンプレックスや失敗などを材料に笑いを誘う方法です。
このやり方においてコメディアンである本書の著者トレバー・ノアの右に出るものはいないかもしれません。

著者のトレバー・ノアはアパルトヘイト時代の南アフリカで白人の父と黒人の母の間に生まれました。
その頃の南アは背徳法といって、他人種間での性行為を禁じていました。
つまり生まれたこと自体が犯罪だったのです! これ以上の「自虐ネタ」はないでしょう(ちなみに著者は1984年生まれ。アパルトヘイト廃止は1994年。これは間違いなく「現代」の話なのです)。

今のまずい状況から抜け出せないのは努力が足りないからだと言うのは簡単です。ですが、人種差別、貧困、暴力がはびこり、教育の欠如という社会の中に最初から飲み込まれていたらどうでしょうか。
そもそも努力の仕方を教えてもらえないのです。
普通なら下を向いて生きていくしかありません。それが「当たり前」なのですから。

ですが、トレバー・ノアは違いました。今や「全米で最もホット」なコメディアンです。
なぜそうなれたのでしょうか。
それは彼には「世界」が見えていたからではないでしょうか。
そして彼に「世界」の存在を教えたのは他ならぬ彼の母親なのです。

彼の母親はいつも彼に1人の人間として向き合い、事あるごとに世界はどこまでも広がっていて、何にでもなれると言い続けました。
トレバーの最も身近で信頼できるところに世界の入口があったのです。ですから彼は自然と自分の居場所はここだけではないと気づけたのではないでしょうか。
予見できる将来について準備させておくことはできるでしょう。「グローバルな世の中だから英語を学んでおきなさい」とか「これからはプログラミングだ」とか。
彼の母親のすごいところは、アパルトヘイトが当然のようにいつまでも続くと思われていた時から彼にそう言い続けていたことです。

「当たり前」に思考停止することなく、それは本当なのか、自分にとって正しいと思えることなのかを考え続けることの大切さをトレバーは学ぶことができました。そして混血という、ある意味でどちらの側にもつけない境遇から、かえって他ならぬ「自分」という存在を持つことができたのではないでしょうか。これらが彼の今の成功を支えていると言っても過言ではないでしょう。

真実かどうかは重要ではなく、自分と異なるものに耳を傾けることをしないこの時代に、本書は「自分」と「相手」のそれぞれの背景にあるものは何なのか、そして共に作っていくべき「世界」とはどのようなものであるべきかを考えるきっかけを与えてくれる1冊です。

かといって本書全体の印象は決して重苦しくなく、トレバーのユーモアと彼の母親の「愛」によってページをめくる手が止まることがありません。

読み進めるうちに、「希望」はそれを探そうとする者の前には必ず現れると思わずにはいられなくなります。
トレバーと彼の母親がそうであったように。
そして「希望」があれば世界は今より笑顔に溢れるのではないでしょうか。
「自虐ネタ」で笑いを誘う必要もなくなるほどに。

文/ STORY STORY(小田急百貨店新宿店本館10F)・HS

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