341思い出食堂 No.43 鍋焼きうどん編』/アンソロジー/少年画報社/429円+税外部リンク 
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食漫画の歴史には、ジャンルを認知させファンを熱狂させた重要な事件がいくつかあり、『包丁人味平』『美味しんぼ』『文庫版 孤独のグルメ』の登場は、よく知られています。

私は、ただの販売員で、評論家でも歴史家でもないのですが、「これは知られていないんじゃないかしら?」と感じたことを少し……

食漫画の大拡散に繋がった出来事・コンビニコミックの誕生と、アンソロジー本の嚆矢『思い出食堂』について。

 
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コンビニコミックは、お弁当や飲み物と一緒にコミックも買ってもらおうと企画開発された商品で、1999年夏スタートしたマイファーストビッグが最初です(異説もあります)。
 
かつての作品が安価で読めることと限定販売の意味合いが強いこと、その他諸々のことから、当初から人気があり、各社が続々と参入。面陳主体の雑誌什器の隣に本棚が瞬く間に増設されました。
コンビニコミックをきっかけに大ブームになった作品・大注目された作家もいらっしゃいます。

この流れに抗い、中綴じ雑誌で戦っていた出版社も、まもなく方針を変更し独自レーベルのコンビニコミックを出版するほどの大ムーブメントでした。

 
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もともと食べ物との親和性を考えて企画された商品のためか、食漫画が多く採用され、やがて過去の短編や単発の作品を集めたアンソロジー本が出版されます。
出版社間の壁にとらわれないユニークな本も多く、やがて数編の書下ろしを含む本もあらわれ、ついに、すべての作品が書き下ろしになる時代をむかえます。

企画した出版社は、猫漫画雑誌のジャンルで、後発ながら人気雑誌に成長させた『ねこぱんち』を出版している少年画報社。
本の名前は『思い出食堂』。
2010年10月のことでした。

 
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当時、書下ろしの食漫画雑誌はコンビニコミック以外で出版されていましたが、親雑誌のスピンオフの色合いが濃い内容でした。

ところが、『思い出食堂』は、まったくのオリジナル。
しかも、いままでのコンビニコミックとは、はっきり違っていました。
まず版型が大きいため、店内で目立ちます。当時A5版のコンビニコミックはなく、すべてB6版だったため、自然と目が行くのです。
装丁も凝っており、表紙の用紙は、手触りの良いあたたかみを感じる紙を用い、全体のトーンは暖色系。
表紙中央には、ていねいに描かれた、お皿に盛られた郷愁をさそう書下ろしの料理のカット。
内容はストーリーを重視しており、数名をのぞき、一般には、あまり知られていない作家の方々で構成されていました。
 
出版点数を重ねるに連れ、ぞくぞくと、さまざまな場所で活躍してきた作家やアーティストが集まり、心にしみるなつかしい話の競演が繰り広げられますが、すべての作品を貫く決まりがあるようです。
 
『思い出食堂』以降、類似の企画本は何十点も出版され、『思い出食堂』出身の作家も他誌で活躍の場をひろげていますが、これほどコンセプトが明確なコンビニコミックは他にありません。

 
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編集チームが意図したか分かりませんが、例えば……
 
アンソロジー本は、作家の個性がぶつかり合い、読者はへとへとになることが多く、ともすれば、好きな作家しか読まないということも多いです。
『思い出食堂』はまるで油絵の下地のように、いくつかの決まりをすべての作品に守らせ、作品間の違和感を少なくしているので、全作品があたかもスクラムを組んだように感じられ、フィーリングの合った読者には忘れられない印象を残します。
 
もっとも有名な技術は、しばしば『深夜食堂』の模倣と誤解されますが、「1ページ目は必ず紙面の半分から2/3を使い、テーマの料理の絵をいれる」というスタイル。
読者は気付かないけれど、作家は残りのわずかなスペースで読者の心をつかまなければいけないし、読みきりのため、登場人物の性格や置かれている環境なども盛り込まなければならない……
 
一歩間違えれば、作家の個性をなくしかねない、しかも手間のかかる規則がいくつもあるようで、先生方は、よく受け入れたと感じます。
 
この決まり、「思い出食堂新人賞」の応募要綱の変遷と講評を読むと、ほんの一部ですが垣間見ることができます。

 
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『思い出食堂』は、第2号の発売時に、はやくも試練を味わうことになります。
2号の発売は2011年3月14日月曜日。
東日本大震災の直後で、流通は大混乱。
当時はまだ定期的に出版されるスタイルでなかったため、2号の存在が知られない、という事態が生じました。
 
偶然か必然か、その状況を救ったのが、一部のリアル書店。どのくらいの店舗が参加したがわかりませんが、コンビニでしか扱わないはずの『思い出食堂』創刊号と2号を数ヶ月にわたり販売しつづけました。
※2号は、後に「アンコール発売」として二刷が世に出ました。

 
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2018年11月までに本誌は43号刊行、特別編集や別冊・増刊・姉妹誌をふくめた出版点数は2018年12月でおよそ160点。単行本は「思い出食堂コミックス」というレーベルで33点出版されていますが、おそらくファン以外には知られていないのではないでしょうか?
 
ところが、出版サイドやクリエイターのみなさまのほうでは、かなり注目しているようで、今年(2018年)、思い出食堂の作家の方が企画したトークイベントが東京と大阪・計2回おこなわれ、大盛況だったとの事です。

販売サイドから考えるならば、ゼロ年代の真ん中くらいから、今までのセオリーでは説明できないことばかり起きているわけで、こういった動きも、無視はできないと思う次第であります。
 
文/ 藤沢店・HO

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