443『あひる』/今村夏子/KADOKAWA 角川文庫/520円+税外部リンク 
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引退した父が突然知り合いからもらい受けてきたあひるの「のりたま」。
その存在が近所に知られるようになるとたちまち人気者となり、ひっきりなしに子どもたちが遊びにやってくるようになる。弟は独立してからあまり寄り付かず、「私」は主に2階を生活の場としており、ひっそりとした家だったが、にぎやかになって両親は毎日楽しそうにしている。
 
ところがある日から「のりたま」は徐々に元気がなくなってゆき、病院へ入院することとなる。
子どもたちも訪れなくなり、また静かになった家。
そして「のりたま」が退院してくるのだが……
一見ほのぼのとした冒頭なのにどことなく不穏な空気がにおってくる気がするのは、過去の作者の作品を読んでいるからだろうか。
登場人物たちのコミュニケーションは表面上成り立ってはいるが、相互に関心がないように見える。
あひるの「のりたま」以外の名前が希薄なのも拍車をかけている。

淡々と描かれる日常の中で姿の見えない不気味さが時々顔を覗かせ、不安がかきたてられる。

 
生活の中で違和感を感じても、それを飲み込み波風を立てず、現状を維持するため環境に順応していく「私」にも不気味さを感じるが、この一見平和な舞台で不穏さを感じながらも “これ以上なにもよくないことが起きませんように” と思いながら読む私も、案外似たようなものかもしれない。

どの登場人物にも感情移入が可能だ。
このラストをどう受け止めるかも人によって様々だろうが、読者は続きを否応なく想像してしまうだろう。

文/ アトレ亀戸店・YK


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