556『味見したい本』/木村衣有子/筑摩書房 ちくま文庫/740円+税外部リンク 
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TBSラジオ『伊集院光とラジオと』に、リスナーにとっての思い出の味・思い出のお店が、今どうなっているのかを探す『俺の5つ星』というコーナーがあり、人気です。
活字にならないかと期待していますが、ラジオでしか表現できない巧みな演出なので、難しそう。

なつかしの味というテーマは昔からメディアと相性がよいようで、私達は子どものころから、人生の先輩たちの “なつかしい味ばなし” をテレビ、ラジオ、そして活字で見聞きして育ちました。

懐かしさって、どんどん変わりますね。
“明治大正のなつかし味ばなし” は、今や、江戸時代と同様の研究対象と言っても過言じゃない。
今から数十年後、平成を振り返ったとき、“平成なつかし味ばなし” はどうなるのか?

きっと、昭和の味は研究対象。
平成もあやしくなって、体験している方には、もやもや感が。
いつの時代も、あたりまえのことほど、わからなくなる。
同時代人には通じる話が、若い世代に理解されず、だんだんさびしくなる……
 


食本のプロフェッショナル、木村衣有子(きむらゆうこ)さんは、毎週、数誌に食に関する本の書評を書かれており、先日も、SNSで話題のアカウント「近現代食文化研究会」( TwitterBLOG )を紹介されるなど、時代の空気に敏感です。

先月出版されたちくま文庫『味見したい本』は、ここ10年、リアルタイムで店頭で食本を多く見てきた方は、うれしくなる本ばかり。7つのグループにわけて38冊の本を紹介されています。

後世、同時代を生きた人には、平成最後の数年間を思い出させる評論集になるのではないでしょうか。
文庫になった作品が多いのも特徴。
ジャンルも多岐にわたり、パッケージデザイン・SNS・建築にまで及びます。
ノンフィクションを中心に、斬新な切り口の作品の紹介がいいです。
 
 
かつての作品の紹介は、前作『もの食う本』を読まれると、いっそう興味深くなります。
『もの食う本』は、木村衣有子さんの感性に絡んだ本が多く紹介され、体験に根差しているように感じます。

『もの食う本』
木村衣有子:著 武藤良子:絵
筑摩書房 ちくま文庫/740円+税
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『味見したい本』のかつての作品の紹介は、その延長で昭和の日常を思い起こさせます。
あのころ、“なつかし味ばなし” には必ず古川緑波が引用されていましたけれど、平成終わりの現代では、まったく聞かなくなりましたね。
戦前の豊かさ・戦中戦後の食糧難の話も、ドラマ以外ではあまり耳にしなくなりました。

ラストに選ばれた作品は、木村衣有子さんにとって重要な作家、吉田健一。
 
紹介した本の連載誌名や著者の略歴も簡潔に書かれ、同時代を生きた人間には本の背景がうかがわれ、うれしくなります。
 
 
イラストは、『大きい犬』で話題のスケラッコさん。
でも、食本ファンには、食漫画のしょうゆさし姿のスケラッコさんの印象が強いから、店内の文庫コーナーで予期せず出会うと「わかってらっしゃる方が書いているのね」と感激します。

時代の空気が詰まった、本の形のタイムカプセルです。

文/ 藤沢店・H.O

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『しょうゆさしの食いしん本』
スケラッコ/芳文社コミックス/619円+税
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『大きい犬』
スケラッコ/リイド社torchコミックス/630円+税
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