513『チャコちゃん めしあがれ!』1巻/ただりえこ/少年画報社 思い出食堂コミックス/690円+税外部リンク 
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その昔、写真撮影は特別な技術で、しかもカメラもフィルムも高価で、平成令和の画像映像あふれる時代がやってくることなんて夢のまた夢。
現在の私たちは、映像的にはものすごい時代を生きています。

『チャコちゃん めしあがれ!』の主人公 小村寿子のニックネームはチャコちゃん。町の写真館の娘さんです。
舞台は1970年代初頭。ご両親とおばあさん、そして厳しいお兄さんの5人暮らし。

写真館の娘さんというわけで、子どものころからカメラに慣れ親しみ、従来とは異なる視点で対象をみつめ、心を動かす写真・食欲をかきたてる写真を撮影する技術を持っているのですが、本人は気がついていません……

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『チャコちゃん めしあがれ!』の掲載誌は、少年画報社のコンビニコミック『ひとりごはん』。『思い出食堂』の姉妹誌です。

『ひとりごはん』創刊号に記された編集部からのメッセージは「ひとりだからこそ、ごはんに向き合える楽しい時間がある」。
掲載作品は女性の主人公が多く、そのため女性ならではの問題が物語の核になる作品も多いです。

また、<主人公悩む → 店みつける → ご飯食べる → 元気になる → がんばろう!>という物語のパターンを、どのように料理するかがネックになります。
この問題と戦わないと、同じような話ばかりになり、たいていの読者は困惑することになります。

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同じテーマなら『孤独のグルメ』という成功例があるじゃないか、という意見もありましょうが、そう簡単な問題ではないようです。

谷口ジロー先生は、久住昌之さんの原作がセリフも料理の説明もほぼないことから「主人公が見たものを見えたように描き込まなければならない」と考え、8ページの原稿に3名のアシスタントを使い、1週間かけて恐ろしいほどの書き込みをし、作品の密度を高めることで勝負していました。
しかし単純計算すると、『孤独のグルメ』の原稿料だけでは赤字です。
 
この件は、原作者・久住昌之さんのFacebookの追悼投稿でわかったことです。どうも、知られていないようですが、『孤独のグルメ』が一般的に知られるようになったのは連載時でも単行本発売時でもなく、連載終了から4年たった2000年2月、扶桑社文庫版の発売後のことです。

『孤独のグルメ』
久住昌之・谷口ジロー/扶桑社文庫
600円+税
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2014年秋から『思い出食堂』の増刊として不定期で4号出版された『ひとりごはん』は、2015年3月から各月刊化しました。
創刊時から、ひとりでごはんを食べる作品表現を一貫して追求し続けています。
主人公をひとりの状態へ演出していくバリエーションの豊富さは、たかなししずえ先生の『しーちゃんのごちそう』が群を抜いています。
※『ひとりごはん』連載分だけで1冊の本にまとめていませんのでご注意ください。

『しーちゃんのごちそう』
1巻
たかなししずえ/少年画報社 思い出食堂コミックス/650円+税
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『思い出食堂』の姉妹誌ということもあり、おとなしめの作品が多いのですが、状況が変わったのは表紙のキャッチフレーズ「女子とごはんのホっとなひととき」から「女子」が抜けた2017年の秋ごろ。
例えば岡井ハルコ先生の読み切り連載。同じテーマなのに、今までの同誌の作品とは、発想と表現方法がまったく違います。良い意味で『思い出食堂』に縛られていません。
また、読者が共感する作品、知らずに涙があふれてくる作品が多いです。

そういった流れの中、『チャコちゃん めしあがれ!』の連載がはじまりました。

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ただりえこ先生は、前作『乙飯日記(おとめしにっき)』で、女性の生き方をテーマにした作品を発表しています。
『チャコちゃん めしあがれ!』は、戦後生まれで男女平等の教育を受け、1970年代初頭に社会へ出る女性を描いているため、前作のテーマを引き次いでいるともいえます。

『乙飯日記』
ただりえこ/少年画報社 思い出食堂コミックス/650円+税
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しかし、作品内の時間を生きてきた人間には、女性の生き方の問題もさることながら、あの時代の空気の再現性の高さにしびれます。
背景や小物は、手触りまで思い起こさせます。脳を刺激するようなアイテム選択がうまいと感じます。だいたい郷愁をかきたてるタイトルが、すでにすばらしいじゃありませんか。

そして、肝心な食事シーンの描写。食べた時の味や匂い・歯ごたえを思い起こさせるカットが続き、読者の感性にうったえてきます。
読者の食事経験とリンクするセリフと表情が追い打ちをかけ、読後、どうしてもその料理が食べたくなります。
食べているときの笑顔が、また素敵です。

おためしで、扇風機が必要なくらい暑い日に『冷やし中華』のお話を読んでみてください。

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少しネタバレをすると―――

チャコちゃんは、出版編集の道を選びます。ファッション雑誌の料理コラム担当です。モデルは『ジェイ・ジェイ』かもしれません。
物語は、2巻から80年代に突入します。
チャコちゃんは30代を迎え、どのような生き方を選んでいるのでしょうか?

出版流通を仕事にしている私には、背景も気になります。
80年代は、向田邦子の死や『クロワッサン』の方針変更、ライバルになるであろうファッション雑誌創刊ブームもあります。
はたらく女性の救世主、小林カツ代さんもそろそろ注目され始めるころです。
“団塊の世代がリタイヤしたときどうするのだろう” ということがコンセプトの『サライ』も現れます。
首都圏に特化した女性のための情報誌『Hanako』も創刊。
男性に料理の道を諭す『danchu』は、もうすこし後。
出版業界どころか社会現象になってしまった『美味しんぼ』、広い客層の支持を得ている長期連載作品『クッキング・パパ』のスタートもひかえています。
そういえばバブルもあった。

こういう背景が作品に生かされるかわかりませんが、今から、とても楽しみです。

文/ 藤沢店・HO

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