046『営繕かるかや怪異譚 その弐/小野不由美/KADOKAWA/1,600円+税外部リンク 
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小野不由美。誰もが知る「十二国記」シリーズの作者である。

当初、10代後半の女の子をターゲットとした文庫シリーズで発表された「十二国記」は、30年以上に渡って読み継がれ、待ち望まれて来た。
そして今年、18年ぶりに本編新作が発表され、世間は再び「十二国記」ブームに沸いている。
しかし、実は小野不由美は怪談が本業(?)だったりするのだ。
「十二国記」ブームの陰でひっそりという訳でもないが発売されたこの『営繕かるかや怪異譚 その弐』は、5年ぶりの新作であり、ファンにとっては外せない一冊なのである。
    
短編連作という形をとっており、舞台はある地方都市の古い城下町。
年数がたち、くたびれ、傷んだ家や建物で怪異がおきる。

例えば、最初の「芙蓉記」では、長年引きこもりだった弟が自殺し、両親も相次いで病死した実家に主人公が戻ってくる。
彼は弟の部屋でかくされていた隙間を見つけた。そこから隣の家の、いるはずのない芸妓の生活を覗くという行為にのめり込んでいく。家の片付けや職探しを忘れて。
やがて、芸妓の女は心中を求めてこちらに紐を差し出すようになり、彼はあることを確信する。

「水の声」では、小学生の頃、夏休み中に仲間と遊びに行った川でその内のひとりが流され溺れるのを、心ならずも見殺しにしてしまった経験を持つ男性。
その次の年から家の中で腐った水の臭いがするようになり、時折鏡や窓ガラスに膝を抱えて座る少年が映り込むようになる。


どの話も主人公たちが追いつめられ、死の危険に行き詰まった状態で救いの手が差し伸べられる。
それが営繕かるかやという屋号の若い大工、尾端(おばな)なのだ。
彼は霊能者の類いでも何でもない、ただの大工だという。
しかし何故か、色んなつてで(主に隅田という工務店の紹介)こういう怪異関連の仕事が廻ってくるらしい。

解決法をネタバレしないよう前作の例で紹介すると、幽霊が出る部屋に中庭にむけて窓を作り、そこを開ければきれいな水が飲めるようにすることで、部屋を出て徘徊するのを防ぐ、という具合である。

怪異と共存できるようにしたり、実害があれば塞いだり、住人にアドバイスもする。
やっていることは大工さんの修繕の仕事なのだが、進退窮まっていた依頼人たちは、やがて人生までが好転してゆくのである。


読み始めはこれでもかと言うくらい暗く、閉塞感があり、それが恐怖を増幅させるが、尾端の登場と共に、私にはビ〇ォーアフターのあの音楽が聴こえてくる気がするのである。


文/ アトレ恵比寿店・TM

1作目は
文庫化
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『営繕かるかや怪異譚』
小野不由美/KADOKAWA 角川文庫/600円+税
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