246『ヘヴン』/川上未映子/講談社 講談社文庫/552円+税外部リンク 
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『夏物語』が今年の本屋大賞にもノミネートされている、川上未映子さんの三作目『ヘヴン』の紹介です。

『夏物語』は反出生主義についての議論を軸に、「生まれてくること」の意味について問われた長編作品でしたが、『ヘヴン』もまた、いじめに対する善悪や、倫理、信仰などの問題が問われた14歳の「僕」の物語です。


物語はいじめをうける主人公「僕」のもとに一通の手紙が届くところから始まります。
「わたしたちは仲間です」そう書かれた手紙は同じクラスで同じくいじめをうけていた女子生徒コジマからのものでした。
そんな二人が心を通わせながら、いじめに向き合っていく長編小説です。

この作品はいじめがテーマの作品ですが、「いじめはよくない」「いじめは悪だ」という倫理観を単に描いた作品ではありません。
いじめは本当に悪なのか。
なぜ悪なのか。
そんな物事の本質的な疑問から、真摯に向き合った作品だと感じます。

「いじめられていることにも意味がある」と主張するコジマ。
圧倒的に正しい論理でそれに立ちはだかる、いじめの加害者百瀬。

読後には、「ヘヴン」=天国という、まかり通ったイメージそのものが変わってしまう、そんな壮大な作品だと思います。

皆さんは「ヘヴン」というと、どんな世界をイメージしますか?
「神様がいて……」
「痛みがなくて……」
人生を乗り越えた先にある「ヘヴン」に、「痛み」を引き受けるだけの価値が、意味が、本当にあるのでしょうか。

私にとってこの本は、そのような問いについて考えざるを得なくなるような、そんな一冊となりました。

『夏物語』にあわせて、『ヘヴン』もぜひ一度読んでみてください。

文/ アトレ目黒店・KS



『夏物語』
川上未映子/文藝春秋/1,800円+税
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