saihatenoie『さいはての家』/彩瀬まる/集英社/1,500円+税外部リンク 
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地方の古い民家。
その家に引っ越してきて、ひととき住む人々。

駆け落ちをした不倫カップルであったり、ヤクザに追われるチンピラと事情を知らず彼と同居する元同級生、以前教祖だった老婦人。

それぞれの住人のこの家での生活が、ひとつの短編になって、つながっていく。
庭つきの、庭のむこうは高齢者の施設。
午後にはその施設の老人たちが、庭に出て歌う古い歌が聞こえる。

彼らはそれぞれにその家になじみ、庭に何かを植えたり、もとから生えていた木の実を食べたり、何も植えずほっておいたりする。

隣の施設とも、歌を聴いているだけだったり、老母を預けていたり、施設の老人がたまに庭に入ってきたり、関わり方もそれぞれ。
 

この本のなかの「ままごと」という一編。
会社の創業者の父と、おっとりした姉、しっかりものの妹、弟。
姉は父の会社の幹部との縁談をこばみ、妹の学生マンションに来る。その後この古い民家を借り、一人で暮らしはじめる。

妹は恋人に違和感を覚え始め、別れ話をするが、納得してもらえない。
一方両親は、姉の縁談の相手を妹に会わせる。妹の見合いを知った恋人は激昂して、避難していた姉の家にまでやってくる。それを助けたのは、妹がつねづね頼りないと思っていた姉だった。

父を敬愛し、主張をし努力して結果を出し、認めてもらったと思っていた。でも父親にとっては、娘は娘。息子より一段劣るものでしかなかった。
それを友人にラインしても、恋人と別れたいと言っても、普段彼女のほうが彼より強くわがままに見えているので理解されない。
仲がいいわけでも悪いわけでもない姉は、自然に妹を守った。

そんな、関係やこころの動きや空気など、短編でありながら過不足なく描いている。
どこがどうと言えないのだけれど、いままでにない、今まで気が付かなかった空気や関係を、表現できる作者と思う。

文/ ラスカ小田原店・MT
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