※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。

鼎 談 参 加 者 |
平尾才助 (55歳) ----- 書店員歴33年 悠木和雅 (44歳) ----- 書店員歴15年 野口魚子 (33歳) ----- 書店員歴 6年 |
悠木: さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
野口: 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
平尾: 毎度のことながら、誰にも頼まれてないけどな。
悠木: 今回は候補が5作なんですよね。
平尾: なんで窪美澄の『 晴天の迷いクジラ 』が入ってないんだよ!
野口: 桜木紫乃もですよ!
悠木: まあ、私たちはどういう過程で候補作が決まるかは分かりませんからね。この5作の中から予想するしかないわけです。
平尾: まったく、おまえはつまらない男だな。もう今回はあそこに決まってるだろ!
野口: あそこって何ですか?
悠木: それでは本命から予想してまいりましょう。
候補となった5作をすべてご紹介しています。続きはこちら!
↓

『新月譚』/貫井徳郎/文藝春秋/2,205円(5%税込)
悠木: 貫井徳郎は3回目の候補です。
平尾: まだ3回目だったのか!もう10回くらい候補になってるのかと思っちゃった。
野口: これは面白かったです!続きが気になって気になって、一気読みでした!
悠木: 八年前に突然絶筆した咲良怜花という女性作家の半生を描いた作品ですね。もちろんフィクションですが。
平尾: どうしてあんなダメ男に振り回されるんだろうな、っていう話だったな。
野口: 平尾さん、それを言っちゃ身も蓋もありません。この男はダメだダメだと思っていてもなかなか離れられないのが女ってもんなんですよ。
平尾: ぷっ。
悠木: いや、何より、貫井徳郎にこういうひきだしがあったことに驚きですね。男性の作家が書いたとは思えない作品です。
平尾: それに版元も文春だしな。今回はこれが鉄板だな。
悠木: ただ、貫井徳郎は『 愚行録 』『 乱反射
』で候補になった時、それほど選考委員の評価が芳しくないんですよ。鉄板と言い切るのは危険ではないかと…。
平尾: また、すぐそうやって予防線を張るぅ。

『鍵のない夢を見る』/辻村深月/文藝春秋/1,470円(5%税込)
平尾: 対抗も文春ってことだな。
悠木: 辻村深月も貫井徳郎と同じく3度目の候補です。『 ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ 』と『 オーダーメイド殺人クラブ
』で候補になりましたが、今回の候補作は『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』寄りと言えるんじゃないでしょうか。
野口: はい。女子のねっとりした部分を書くのが本当に上手いですね。
平尾: いや~、後味悪すぎないか?
悠木: 犯罪がテーマの短編集ですから。
野口: ごくごく普通に生きている人達の、魔が差す瞬間が描かれています。転落していく人たちの姿を見ると、自分にもこういうことが起こりかねないと思って怖くなりました。
悠木: 初期からの辻村深月ファンの読者には、ちょっと受け容れにくい作品かもしれませんね。

『楽園のカンヴァス』/原田マハ/新潮社/1,680円(5%税込)
平尾: 原田宗典の妹さんだな。
野口: 原田マハは今回が初めての候補です。そしてこの作品は今年の山本周五郎賞受賞作でもあります。
平尾: 山周賞と直木賞をとった作品って、前にもあったよな。
悠木: はい。2004年に熊谷達也が『 邂逅の森 』で両賞を受賞しています。
平尾: じゃ、今回もあり得るってことだな。
野口: はい。個人的には今回の候補作の中で一番心動かされた作品です。
悠木: アンリ・ルソーの大作をめぐるミステリーですね。かつてキュレーターをしていたこともある著者の知識が余すところなく詰め込まれた作品です。
野口: 私は何よりも、研究者や学芸員の方々の美術に対する愛情や情熱に圧倒されました。胸が熱くなりました!
悠木: 美術好きもミステリー好きも楽しめる作品ですね。ただ、ミステリー好きとしては、ちょっとご都合主義なんじゃないかと思える部分がなかったわけではありません。そこが選考委員にどう評価されるか、今から気になるところです。

『もういちど生まれる』/朝井リョウ/幻冬舎/1,470円(5%税込)
悠木: 朝井リョウは初めての候補です。
平尾: 朝井、直木賞候補になったってよ。
野口: 初の平成生まれってことで話題を独占していますね。
平尾: デビュー作の『 桐島、部活やめるってよ 』の頃から文章は上手かったからな。朝井リョウの作品をずっと読み続けているオレとしては、息子が東大に受かったくらい嬉しいな。
野口: まあ、今回は顔見せなんでしょうね。
悠木: 私は、デビュー作以来久しぶりに朝井リョウを読みましたが、いやぁ本当に上手いなぁと思いました。20歳前後の学生を描いた連作短編集なのですが、これが今の若者のリアルなんだろうなぁ、と。『桐島』の時にも感じましたけどね。
平尾:そうそう。おじさんたち、朝井くんから学ぶこといっぱい!

『盤上の夜』/宮内悠介/東京創元社/1,680円(5%税込)
野口: 宮内悠介は初の候補ですね。
悠木: 囲碁、チェッカー、麻雀、将棋、古代チェスなどのボードゲームをテーマにした短編集で、表題作は第1回創元SF短編賞(山田正紀賞)受賞作です。これがすごいんですよ。
野口: はい。四肢を失い、囲碁盤を感覚器とした女流棋士の話です。とにかく圧倒されました。候補にならなかったら出会わなかった作品だと思うと、この作品を候補にしてくれてありがとうと誰かに感謝したい気持ちです。
平尾: 今回、この作品が入ったことが一番意外だったな。
悠木: SFと直木賞は相容れないものがありますからね。SFという枠には収まらない魅力のある作品なのだと思います。
平尾: ひょっとしてひょっとするんじゃないか?
悠木: まあ、今回は顔見せと考えていいでしょう。これから期待大の作家であることは間違いないです。

平尾: 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
野口: はい。皆様にも是非全作品お読みいただいて予想してほしいですね。
悠木: ちなみに第147回直木賞、発表は7/17(火)夜です!
平尾: 「該当作なし」だけは何としても避けてほしいな。
文/ ヨドバシAKIBA店・加藤泉
第147回直木賞は、 辻村深月『 鍵のない夢を見る ![]() >>文藝春秋 直木賞最新情報 辻村先生、おめでとうございます。 (本の泉スタッフ 7/17追記) |
