有隣堂のスタッフ有志が、それぞれ2012年の上半期に出版された本の中から「これがベストワン!!」という1冊を選びました。気になっていた本や、チェックしていなかった本はありませんか?
未読の本がございましたら、ぜひお手にとってみてください。
連日の暑さからのがれて、涼しいところでゆったり読書。
そんな夏休みもアリですよね!
| ▼ 起終点駅 |
▼ クローバー・レイン |
▼窓の向こうの ガーシュウィン |
▼月曜日のリスは さびしい |
| ▼ パラダイス・ロスト |
▼ リライト |
▼少年は残酷な 弓を射る |
▼ローマ法王に 米を食べさせた男 |
『起終点駅』/桜木紫乃/小学館/1,575円(5%税込)震災から1年近く、小説を読むことが苦痛だった。津波、原発事故、離れた土地にいても生きた心地がしなかった。愛とか絆とか、何を読んでも白けてしまって心に入ってこない。でも不安を埋める何かを読みたい。たまたま手に取ったのがこの本だった。
桜木紫乃さんの著作は初めて読む。「起終点駅」は6編の物語が収められた短編集。
それぞれが30頁ほどの短い小説の、書かれなかった部分に物語を想像させる。短編でありながら1話1話が長編のような分厚い読後感。
分かりやすく心温まるような生やさしいエピソードは無い。それでも、生きることの厳しさや孤独が描かれている中に、不思議と希望のような温かいものを感じた。
きっと生きること自体が希望だからだ。読み終えて、「ああ、私、生きてる」と思った。あの日からずっと頼りなくフワフワしていた私の中の「生きている」という感覚が、お腹のところに戻ってきたような気がした。
誰にも苦しい時に出会うべくして出会える本があると思います。私にとってはこの本がそうでした。きっとあなたにも、何かを残す1冊になると思います。
『クローバー・レイン』/大崎梢/ポプラ社/1,575円(5%税込)大手出版社の文芸編集者が、鳴かず飛ばずの作家の傑作小説を周囲の反対をものともせずに出版させる、という内容の小説だが、一人の若者が熱意をもって自分を信じ、突き進むことによって成功を勝ち取る青春ビジネス小説として、書店や出版業界以外の人にも本当にお薦めできる小説です!!
初めは周囲から反対の嵐だが、壁にぶつかりながらも熱意と信念であきらめることなく突き進んでいくうちに次第に味方や協力者を得て、ついに出版。その後の展開は読んでいて爽快!! 元気が出て自分も頑張るぞ、という気にしてくれます!!
主人公の過去や恋、そして最後のエピソードなどは涙がぐっとこみ上げてきますが、それは読んでからのお楽しみで……。
そう、明日からも頑張ろう!!
『窓の向こうのガーシュウィン』/宮下奈都/集英社/1,470円(5%税込)自分にはいつも“何かが足りない”と思いながら、ひっそりと暮らす主人公の私。
未熟児として生まれ、家に不在がちな両親の間で育ち、何故か人と会話しようとすると雑音が入って聞き取れず、上手くしゃべることが出来ない。そんな彼女が高校卒業後にホームヘルパーの資格を取り、初めて訪問したお宅でかけがえのない人々と出会う。以前教師をしていた横江先生や、額装の仕事をしている先生の息子、そして先生の孫で中学の同級生の隼。
彼らに出会ってから私の中で何かが少しずつ変わっていく。
今まで何かをやろうとする前から、自分が未熟児で生まれたことを言い訳にして逃げ続けていたことに気づき、「楽しい・うれしい・悲しい・さびしい」などという極当たり前の感情を抱けるようになって成長していく主人公の姿に、何度も勇気と元気をもらいました。また改めて人と人との出会いを大事にしたいと痛感しました。
宮下さんの作品は、何気ない日常の暮らしの中から私たちにそっと大切なことを教えてくれます。最近何かに思い悩んだり、自分に自信が持てなかったり、やる気を失ったりしている方には是非読んで欲しい1冊です!
私にとっての本の宝物が、また1冊増えました。
『月曜日のリスはさびしい』上巻カトリーヌ・パンコル:著 高野優・臼井美子:訳/ハヤカワ書房/1,995円(5%税込)
下巻/1,995円(5%税込)
『 ワニの黄色い目 上・ 下
あるきっかけでジョーという冴えない女性が作家として成功し、人生を切り開いてゆく物語です。単なる成功物語かと思いきや、ハーレクイン的要素あり、ミステリーあり、青春小説的要素もあり、と盛りだくさんな内容で三部作全てが上・下巻の本にも関わらず、すらすらと読めてしまいます。
主人公のみならず登場人物がみなとても魅力的で、それぞれのモノローグを読むたびにその人に肩入れしてしまう珍しい小説です。ジョーの母親は、この小説では完全な悪役なのですが、その悪巧みの成功までも祈ってしまいそうになるほどです。
一作目で書いた小説がベストセラーとなり、作家として成功したジョーですが、次の作品がなかなか書けずに悩みます。そんなとき偶然見つけたある日記をもとに次回作にとりかかろうとするのですが、日記の持ち主の承諾を得ることができません。
この主人公はイライラするほど純粋で素直でチャーミングです。そして心にいつも悲しみを抱いています。そんな彼女が日記の持ち主を説得する場面は感動的です。
持ち前の純粋さで冷えきった相手の心を開きます。
読むと前向きに、元気になれる物語です。
『パラダイス・ロスト』/柳広司/角川書店/1,575円(5%税込)今年、マイ上半期ベスト1と言えば、もうこの作品しかありえません。
ベストセラー『 ジョーカー・ゲーム
あとの二編も読んでいると、なんだか手に汗握る高揚感。ともかく、ともかく、かっこいい! 人は訓練次第でこんなにかっこよく振舞えるものなのだ。
柳広司先生の作品は、読んでいると自分がスパイになり、世界を駆け巡っているかのような気持ちになります。この全編に漂う異国の香りが、最高に心地よい! そして、物語に引きずり込まれ、酔いしれるこの感覚。面白くて、何回も読みました。が、ついつい何度も夢中になって読める物語は、そう出会わないのではないかと思います。今年、最高の一冊!
『リライト』/法条遙/早川書房/1,680円(5%税込)「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」創刊10周年記念作品の本作は、記念作品に相応しい、SFの王道「タイムトラベルもの」です。
「タイムトラベルもの」と言えば、「過去に行ったことで未来が輝かしいものに変わり、ハッピーエンド」というものが大半ですが、しかし、全てが良い方向に変わるわけではない。タイムトラベルには恐ろしい一面もある。それを描き出しているのが本作『リライト』です。
10年前の自分が現代にやって来るはずなのにやって来ない。そこから物語は始まり、その原因を探っているうちに、同級生が次々と「記憶にない死」を遂げて行く……。
キーパーソンは300年後の未来から10年前にやって来た少年。彼は「ある物」を求めて過去にやって来るのですが、その「ある物」が歴史のパラドクスを生む元となり、時の歯車を狂わせることとなる。
過去と現在を行き来しながら物語は進んで行き、過去の出来事が明らかになるに連れ逆に謎が深まって行き、先が気になって、ラストまで読む手を止めることができませんでした。
伊藤計劃、小松左京と惜しい人を亡くして来ましたが、日本のSF界もまだまだ捨てたもんじゃないなと思わせてくれた一冊です。
『少年は残酷な弓を射る』 上巻ライオネル・シュライヴァー:著 光野多恵子・真喜志順子・堤理華:訳/イースト・プレス/1,785円(5%税込)
下巻/1,785円(5%税込)
今年上半期、最高に「イライラする」小説。
この作品は15歳の少年が起こした重大な事件について、家庭を滅茶苦茶にされた母親の独白から、事件の全容を明らかにしていくセミドキュメント・タッチの物語である。
上巻はヒステリックな母親のやや独善的な語りが延々と続き、非常に「イライラ」させられる。ここで退屈さを感じて放棄するのを我慢しながら下巻に入ると、急激に話が加速し始める。今まで被害者面をしているように見えた母親への「イライラ」が別の人物に移行し、読者は本当は誰に、何に、苛立ちを覚えているのかを問われることになる。そして「事件」の詳細が語られるのだが……。
少年が非道な事件や凶悪な犯罪を起こすニュースが後を絶たない昨今、我々はその報道に対してある種の免疫ができているのではと感じるときがある。「まだ幼い少年が、何故」という衝撃は薄れ「また幼い少年か、辟易」としながら憤りだけが募ってはいないだろうか。
誰の心にも宿る「イライラ」は暴発の萌芽かもしれない。この作品の登場人物たちと最後の頁まで向き合うことができれば、読者はこの事件に加担することを回避したといえるだろう。読者の心理を見事に利用した巧妙なサスペンスである。
この世界に対してどうしても拭えない違和感を抱えている方々には特に読んでいただきたい問題作だ。
スタッフ部門・KH
『ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?』高野誠鮮/講談社/1,470円(5%税込)
石川県の農村。過疎高齢化の限界集落を60万円の年間予算で立て直さなければならない事になったら、一体何をするでしょうか?
「お年寄りが多いから、まずはバスなど公共交通の整備、それが仕事の需要にもつながるんじゃないか」
そんな事を思いながらこの本を読み始め、そしてガツン!と目を覚まされました。
プロジェクトの責任者であった著者は、まずこう考えました。
対症療法ではなく根本治療でなくては、と。
思わず唸ってしまうアイデアや笑ってしまうアイデア、あの手この手で東奔西走。ローマ法王に地元米を贈ってブランド化、「酒が飲める女子大生」で都市圏の若者を集落に馴染ませ、農家を守るためにはJAにケンカも売る。
分かりやすい言葉の端々には、著者の熱い思いと優しい眼差しが潜んでいます。
まさに小説顔負けのドラマ!
田舎暮らししたくなります。
スタッフ部門・YK
文/本の泉スタッフ



