

序文から「笛吹き」という一編の詩へと続き、この短編集は始まります。 上巻の時系列はちょうど『炉辺荘のアン』から『虹の谷のアン』の間あたりでしょうか、アン一家がおそらく一番幸せであったであろう時代のお話です。
短編の中で彼女とその家族は、登場人物の会話の端に上るくらいで、ほぼ登場しません。 また、話と話の間にアンの詩と夫婦や家族の対話集が挟み込まれる形をとっています。アンとギルバートの会話はとても甘く、読んでいるこちらが照れてしまうほどですし、子供たちとの会話にはほっこりさせられます。この少し変わった形式の原稿は、モンゴメリ自身によって修正が加えられ、死の直後、謎の人物によって出版社へ持ち込まれたそうです。
戦時中ということもあり、話は切り刻まれて発表され、女史の意図したものとは別物となっていましたが、70年近く経ちようやく完全な形で出版されたこの本の根底からは、モンゴメリの最期の想いを感じ取ることができるでしょう。
今回翻訳をされたのは、新潮文庫『赤毛のアン』の訳者村岡花子さんのお孫さんだそうです。 おばあ様の作ったアンの世界を出来るだけ壊さぬよう、丁寧に訳されてるように思いました。
もう一度、赤毛のアンから読み直してみようと思わせる作品です。
文/ シャポー小岩店・YS
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