第148回直木賞候補の6作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。
 
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鼎 談 参 加 者
平尾才助 (55歳) ----- 書店員歴33年
悠木和雅 (44歳) ----- 書店員歴15年
野口魚子 (33歳) ----- 書店員歴 6年

悠木: さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
野口: 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
平尾: 毎度のことながら、誰にも頼まれてないけどな。
野口: 今回は候補作6作中、時代小説が3作占めています。
平尾: 多いな。時代小説に風が吹いているな。風が吹いている~♪
悠木: これまでに6作中時代小説が3作占めている回は、必ず時代小説から1作受賞しています。たとえば、第126回の山本一力、第127回の乙川優三郎、第140回の山本兼一がそうですね。
野口: へえ~。では今回も時代小説が受賞する確立が高いですね。
悠木: ただ、今回は直木賞候補常連作家がいなくて、2度目の候補が3人、初の候補が3人となっています。こういう回は番狂わせがあって予測しづらいんですよ。
平尾: ぐたぐた言ってないで早く予想していこうぜ。

候補となった6作をすべてご紹介しています。続きはこちら!
 

国を蹴った男『国を蹴った男』/伊東潤/講談社/1,680円(5%税込)詳細

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悠木: 伊東潤は2回目の候補です。第146回に『 城を噛ませた男 』で候補になっています。
平尾: 横浜生まれの作家だな。受賞して神奈川を盛り上げて欲しいところだ。
悠木: 戦国時代のマイナーな人物に焦点を当てた短編集で、どの短編もほろ苦い読後感です。これは、前回直木賞を受賞した辻村深月『 鍵のない夢を見る 』に通じるものがあります。
野口: はい。あまり時代小説を読まない私でも、夢中になって読み終えました! 羽柴秀吉や石田三成や上杉謙信といった有名な戦国武将が出てくるのですが、彼らが主役ではなく、引き立て役になっているところが面白いです。
悠木: 今回の候補作が発表になる前日の朝日新聞書評欄で、逢坂剛氏がこの本を「日陰の人びとに、新しい息吹を与えた著者の着想は、評価されてよい」と書いています。
平尾: 逢坂剛が選考委員だったら鉄板だったのにな!

春はそこまで『春はそこまで』/志川節子/文藝春秋/1,575円(5%税込)詳細

悠木: 志川節子は初めての候補です。
平尾: 初候補で受賞は難しいんじゃないか?
悠木: いえ、一概にそうとは言えませんよ。記憶に新しいところですと、第144回に木内昇が初候補で受賞しています。
平尾: 『 漂砂のうたう 』も時代小説だったな。素晴らしい作品だ。
悠木: この『春はそこまで』も、読んでみるとすごくいい作品だと分かります。
野口: はい。候補にならなかったら読むことのなかった作品かと思うと、候補にしてくれた人にありがとうと言いたい気持ちでいっぱいです。
悠木: 舞台は江戸、芝神明宮近くの「風待ち小路」に暮らす市井の人々を描いた短編集です。登場人物1人1人の造型がしっかりしています。
野口: 収録作6編のうち、前半はほんわか市井ものという感じなのですが、後半はミステリーっぽい要素も加わってきます。この構成もいいですね。
平尾: 驚くべきことに、これ書き下ろしなんだよな。書き下ろし時代小説文庫が隆盛を極めている昨今、単行本で出した版元の心意気もオレは買いたいな。

ふくわらい『ふくわらい』/西加奈子/朝日新聞出版/1,575円(5%税込)詳細

悠木: 西加奈子も初の候補です。
野口: 嬉しい! この作家が直木賞の候補になる日をずっと待っていました!
悠木: 最近、とみに磨きがかかっている作家です。『 円卓 』も『 漁港の肉子ちゃん 』も評判が良かったです。
平尾: でもよぉ、選考委員の先生方に西加奈子の良さが分かるのかな? と思っちゃう。
悠木: 哲学的なテーマがたくさん散りばめられた作品ですからね。純文学に近い印象もあります。
野口: この作品を読んですごく考えさせられたのは、「言葉」についてです。著者が「言葉」と格闘しているのが伝わってきて、胸を打たれました。この点を高く評価する選考委員がいらしてもおかしくないはずです。
平尾: まあ、この作家の良さは読まないとなかなか伝わらないので、受賞して読者層の裾野を広げてもらいたいな。

何者『何者』/朝井リョウ/新潮社/1,575円(5%税込)詳細

平尾: 朝井、また候補になったってよ。
野口: 平尾さん、ほんと『 桐島、部活やめるってよ 』ネタお好きですね。
悠木: 朝井リョウは2回目の候補です。前回、『 もういちど生まれる 』で候補になっています。
野口: 前回は北方謙三先生がプッシュしていたんですよね。「この作品に大きな丸をつけて選考会に臨んだが、孤立無援であり、力が及ばなかった」と選評にありました。なんだか可哀想な感じです。
平尾: オレは朝井が受賞する日を楽しみにしてるぞ。
野口: そんなに朝井リョウがお好きなんですか?
平尾: 戦後最年少でイケメンとなれば、盛り上がり必至じゃないか。書店員としては、朝井リョウが受賞してくれるのが一番ありがたいんだぞ。
悠木: 『何者』は就活小説と言われていますが、SNS小説とも言えますよね。選考委員の先生方がTwitterやFacebookに精通していればよいのですが…。
野口: そこだけがネックですね。
平尾: いやいや、今回も北方謙三にがんばってもらおうぜ! ところで、SNSって何?
野口: そこからですか!


悠木: 安部龍太郎は2回目の候補です。第111回に『彷徨える帝』で候補になっています。
野口: なんと!19年ぶり!
平尾: とっくに受賞している作家だと思ってたよなあ。
野口: 長谷川等伯と言えば、「松林図屏風」くらいしか知らなかったのですが、こんなに波乱万丈の人生を送っていたのかと、この本を読んで驚きました。
平尾: そうだよ、のほほんと絵だけ描いてるわけじゃないんだぞ。
悠木: 高い志を持ちながらも、食べていくために扇絵など描いたり、狩野永徳との確執を抱えながらも狩野派が手がける聚楽第の襖絵に参加したりと、辛酸を舐める姿が描かれているのが良かったです。
平尾: 出た! 人の不幸を楽しむ男、悠木!
野口: 芸術家を主人公にした時代小説というと『 利休にたずねよ 』を思い出しますが、本書にも等伯と親交があった利休が登場します。
平尾: 「等伯」と名づけたのも利休だったんだな。
悠木: 利休好きにも読んでいただきたい1冊ですね。

空飛ぶ広報室『空飛ぶ広報室』/有川浩/幻冬舎/1,680円(5%税込)詳細

悠木: 有川浩は初の候補です。
平尾: 有川浩が候補になるとしたら『 旅猫リポート 』でなると思ってたぞ。版元は文春だし。
野口: この『空飛ぶ広報室』は有川さんお得意の自衛隊ものですね。
平尾: 自衛隊の裏方とも言える広報室に焦点を当てているところが面白いな。
悠木: 自衛隊、ラブコメ、といった路線に加え、今作品は東日本大震災での自衛隊員にも触れられています。これまでと違うメッセージ性を見せたという点が評価され、候補になったのではないでしょうか。
平尾: まあ、でも今回はお披露目ってところだろうな。次の次あたりに文春から出す本で受賞するさ。
野口: 平尾さん、それを言っては…。
悠木: いずれ必ず受賞すると思われる作家ということですね。

平尾: 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
野口: 初候補の作家が多く、なんだかワクワクしますね。
悠木: 皆様にも是非全作品お読みいただいて予想していただきたいですね。
野口: 第148回直木賞、発表は2013年1月16日(水)夜です!!
平尾: 「該当作なし」だけは何としても避けてほしいな。


文/有隣堂 加藤泉
協力/有隣堂 倉田裕子、鈴木由美子


第148回直木賞は、朝井リョウ『何者』・安部龍太郎『等伯』が受賞しました。
朝井先生、安部先生、おめでとうございます!
(本の泉スタッフ 2013/1/16追記)

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