『慈悲と天秤』/岡崎正尚/ポプラ社/1,785円(5%税込)
これは、ある殺人事件により死刑判決を受けた囚人と、弁護士志望の青年との、壁を越えた交流を通じて、人間の生き方そのものと向き合い見つめ直そうとしたドキュメントである。
死刑問題を扱ってはいるが、死刑存廃を論じるものではない。
量刑の妥当性や判決の不透明性について、丹念な法的検証を踏まえ、人が人を裁くことの難しさ、合法的に一己の人間を葬り去ることの危うさを問いかける思索的著述となっている。
何より説得力をもつのは、二人の対話がお互いの精神的成長を促し、実際に人間性を回復していく過程である。
何より説得力をもつのは、二人の対話がお互いの精神的成長を促し、実際に人間性を回復していく過程である。
本書は、真の心の繋がりを模索し、存在を価値あるものにしようともがいた人間の軌跡として、命の重みを実感しにくい閉塞状況の続く昨今にこそ読まれるべきものと信ずる。
文/スタッフ部門・KH