第150回直木賞候補の6作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。


20130106naoki180 悠木: さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
野口: 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
平尾: 毎度のことながら、誰にも頼まれてないけどな。
野口: しかも今回は第150回という節目の回なので力が入りますね!
悠木: 文藝春秋も12月末発売の「オール讀物」1月号で候補作を発表したり、1月には臨時増刊号を出したりと直木賞を盛り上げていますね。
平尾: それで今回は候補作の発表が早かったのか! 焦っちゃったよ。
悠木: さらに、今回から選考委員に東野圭吾先生と高村薫先生が加わり、候補作6作中、初候補の作家が3人と、フレッシュな風を感じます。
平尾: オレの好きな時代小説も3作あるな。早速予想していこうぜ。

候補6作品をすべてご紹介しています!続きはこちら
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鼎 談 参 加 者
平尾才助 (55歳) ----- 書店員歴33年
悠木和雅 (44歳) ----- 書店員歴15年
野口魚子 (33歳) ----- 書店員歴 6年

本命『王になろうとした男』 伊東潤 『王になろうとした男』

悠木: 伊東潤は4回目の候補です。いよいよでしょうか。
平尾: オレたちが伊東潤に賭けるのも3回目だ。もうこれは引くに引けない感じだな。
野口: 今回こそ必ず受賞しますよ! 何といっても版元が文春ですから。
平尾: でもよ、前回候補になった『巨鯨の海』に比べると弱くないか? どうしてあれで受賞しなかったのか分かんない。選評読んでも全っ然分かんない!
野口: 平尾さん、私もそう思います。『巨鯨の海』は本当にすごい作品だと思いましたから。でも、これまでも「これぞ傑作、この作家の代表作!」と言われた作品で受賞していない直木賞作家はたくさんいます。宮部みゆきも、桐野夏生も。浅田次郎先生なんて『蒼穹の昴』ではなく『鉄道員(ぽっぽや)』で獲ったんですから!
平尾: おいおい、それは全国の鉄道員さんに失礼だろう。
悠木: えー、『王になろうとした男』の話しに戻りましょう。織田信長に仕えた5人の男を主人公にした短編集です。
野口: “戦国時代の半沢直樹”みたいな人たちがいっぱい出てきます。現代のサラリーマンの方々が読んでも身につまされるところがあるのではないでしょうか。
平尾: そうそう。上司に土下座させたら普通クビだろ、なんて思いながら読んでると、殺されちゃうんだよな、戦国時代だから。
悠木: 第146回候補『城を噛ませた男』第148回候補『国を蹴った男』と同じ系譜の作品ですね。
野口: 噛んで、蹴って、今度は王になっちゃうんですね。
平尾: なってないだろ、「王になろうとした」なんだから。ん、このタイトルは不吉じゃないか。
悠木: まぁ、時代小説は思わぬところで評価が厳しくなったりしますからね。我々は温かい目で見守ることにいたしましょう。
『王になろうとした男』
伊東潤/文藝春秋/1,680円(5%税込)

対抗『とっぴんぱらりの風太郎』 万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』

悠木: 万城目学も4回目の候補です。
野口: 表紙がルイ・ヴィトンみたいです。
平尾: オレ、びっくりしちゃったよ。マキメ読んでこんなに泣くと思わなかった。
悠木: 徳川が天下を治め始めた時代、のんべんだらりと暮らしていたニートの忍者・風太郎(ぷうたろう)が一つの使命を与えられるという時代ものです。
平尾: ニートのプー太郎なんていうから絶対笑い話だろうと思って読み始めたらよぉ、胸が熱くなる話なんだわ、これが。
悠木: 戦場で無辜の民が死んでいく様を目の当たりにした風太郎がすっかり変わってしまうところとか、上手いですね。
平尾: オレは、「ひさご様」っていう謎の貴人と風太郎たちが蹴鞠をするくだりが本当に好き! ああいうキラキラしたシーンが一つあると、その後の戦闘場面がさらに際立ってくるんだよなぁ。
野口: 平尾さん、そんなにいいなら本命にしますか?
平尾: いや、あの本を選考委員の先生方が読み切れるとは思わない。752ページの長編だぞ。
悠木: いや、読まれるでしょう。選考委員の先生方は。
野口: 宮部みゆき先生が絶賛しそうな気がしますね。
『とっぴんぱらりの風太郎』
万城目学/文藝春秋/1,995円(5%税込)

大穴『恋歌』 朝井まかて 『恋歌』

悠木: 朝井まかては初候補です。
平尾: 今回、我々は本命・対抗・大穴すべて時代小説で行く作戦だな。
野口: はい。どれか1つは受賞するだろうと思いまして。へへ。
悠木: この『恋歌』の主人公は、明治時代に歌塾「萩の舎」を主宰していた中島歌子です。
野口: 樋口一葉も師事していた人物ですね。
悠木: 幕末に水戸藩士と結婚し、辛酸を舐める経験をした登世という女性の半生が見事に描かれています。あ、登世というのは中島歌子の本名です。
野口: 朝井まかてさん初めて読んだのですが、これは本当に面白かったです! 寝食忘れて夢中になって読みました。
平尾: 水戸藩で天狗党と諸生党の内紛が起こって、登世たち天狗党員の女房子供らが幽閉されるんだよ。そのあたりの描写は凄まじいの一言だよな。
悠木: はい、確かに。また、質素倹約を旨とした水戸藩の実情と対照的に、登世の故郷である江戸の空気がいきいきと感じられました。
平尾: これはひょっとして、ひょっとするんじゃないか?
悠木: そうですねぇ。初めての候補ですから何とも言えないですね。先ほども言ったとおり、時代小説は思わぬところでダメ出しされますから。
野口: 受賞してもしなくても、次回作が待ち遠しい作家が1人増えましたね。
『恋歌』
朝井まかて/講談社/1,680円(5%税込)

『あとかた』 千早茜 『あとかた』

悠木: 千早茜も初候補です。
平尾: 北海道出身の女性作家か。渡辺淳一先生が激オシしそうだな。
悠木: 初候補と言っても、千早茜はデビュー作『魚神』(在庫検索HonyaClub)で第37回泉鏡花文学賞を受賞。今回候補になっている『あとかた』は第20回島清恋愛文学賞を既に受賞しています。
野口: 『あとかた』は6編が収録された連作短編集ですが、最初の1編を読んだとき、これは純文学だなと思いました。
平尾: 確かに、あらすじが説明できない作品だよな。
野口: 島清恋愛文学賞は渡辺淳一、小池真理子、藤田宜永先生が選考委員ですが、受賞時の選評に「現代の恋愛の空腹感と情熱を深くとらえている」とあります。
平尾: おお、さすが渡辺淳一先生!
悠木: 私は読みながら、人と人との関係の脆さやあやうさをすごく感じました。そういった部分を味わっていただければよいかと思います。
野口: この作家も次回作が楽しみです。
『あとかた』
千早茜/新潮社/1,470円(5%税込)

昭和の犬 姫野カオルコ 『昭和の犬』

悠木: 姫野カオルコは5回目の候補です。
野口: 姫野さんが候補になって本当に嬉しいです!
平尾: 第143回で『リアル・シンデレラ』が候補になったとき、本気で推してたもんな。
野口: はい。あの回の宮部みゆき先生の選評は忘れません。「姫野さん、支持しきれなくてごめんなさい。でも、この小説を書いてくれてありがとう」って。
平尾: しかしよぉ、この『昭和の犬』は、犬の話かと思ったらそうじゃないんだよな。
悠木: はい。柏木イクという昭和33年生まれの女性の半生を描いた作品です。
平尾: 「昭和の日本、犬のいる風景」くらいの感覚で読んだほうがいいな。懐かしさを感じさせるディテイルが散りばめられているんだよ。「トムとジェリー」とか。
悠木: 各章のタイトルがアメリカのドラマのタイトルになっているのも面白いですね。
野口: 私としては本命にしたいのですが。
平尾: ただよぉ、エロスが足りないんだよ、姫野カオルコにしては。そこが渡辺淳一先生のお眼鏡にかなうかどうかなんだよな。
野口: 姫野嘉兵衛になって姫野さんは生まれ変わったんですよ!
『昭和の犬』
姫野カオルコ/幻冬舎/1,680円(5%税込)

伊藤くんAtoE 柚木麻子 『伊藤くん A to E』

悠木: 柚木麻子も初候補です。1981年生まれ、今回の候補作家の中では最年少です。
野口: 若い女性の実態を描かせたら今この作家が1番でしょう。
悠木: この『伊藤くんA to E』は、顔はいいけどプライドが高くて自己中心的な29歳の伊藤誠二郎に振り回される5人の女性を描いた連作短編集です。
平尾: この作品が直木賞を獲ったら全国の伊藤くんはドキドキするだろうな。
野口: 伊藤くんのダメっぷりもさることながら、この本に出てくる女の子たちのイタさは私にも通じるところがあると思って、読んでてズキズキしました。
悠木: デビュー作『終点のあの子』(在庫検索HonyaClub)の時から上手い作家だとは思っていましたが、1作ごとに皮が剥けているというか、本当に書きたいことを書いている感じが伝わってきます。
平尾: 今後も注目したい作家だな。
野口: はい。はまるとクセになる作家です。未読の方は是非一度手に取っていただきたいです。
平尾: よし、じゃあ伊東潤が受賞したら、柚木麻子に「伊東さんA to E」を書いてもらおうじゃないか。
悠木・野口: ………。
『伊藤くん A to E』
柚木麻子/幻冬舎/1,365円(5%税込)

平尾: 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
悠木: 皆様にも是非全作品お読みいただいて予想していただきたいですね。
野口: 第150回直木賞、発表は2014/1/16(木)夜です!!
平尾: 「該当作なし」だけは何としても避けてほしいな。


文/有隣堂 加藤泉・倉田裕子
第50回直木賞は、
姫野カオルコ『昭和の犬』・朝井まかて『恋歌』が受賞しました。

姫野先生、朝井先生、おめでとうございます!

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講談社BOOK倶楽部 『恋歌』特集

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(2014/1/16(木)追記/本の泉スタッフ)
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