


脚本家として順調にキャリアを積んできた鈴音(36歳)が、高校時代の友達・水絵に突然呼び出される。子連れの水絵は、2年前に夫のDVで離婚、半年前にはリストラされ、今や家賃が払えずにアパートを追い出されたという。再就職を決めるためには定まった住所が必要で、「一週間だけ」泊めて欲しいと泣きつかれ、鈴音は戸惑いつつも一人暮らしのマンションに母子を連れ帰るが…。
帯に「人にやさしくするのは、ドラマほど簡単じゃない」の言葉がある。
一人暮らしに慣れた鈴音からすれば、部屋に他人が居る気配がするだけでストレスになる。生活の細々とした事で二人の気持ちはすれ違う。鈴音は、10年会っていなかった水絵のことを何も知らないことに気付く。
これが所謂“嫌ミス”だと水絵がどんどんモンスターと化すのだろうけれど、近藤史恵が描く水絵は心情が理解できてしまう普通の母親。読者としては、水絵を簡単に悪者に決め付けられないので困ってしまう。
「学生時代の友達って、なんか不思議」
「20年前は同じ位置にいたのに、いつの間にか全然違うところにいるの」
進学就職で学生時代の友達と差がつくことは、30過ぎの大人なら誰でも思うこと。
特に女性は結婚したり離婚したり、あるいは結婚しなかったりでも、またお相手によってもいろいろ。
あの頃は親しくおしゃべりしてたのに、境遇が違ってしまえば、金銭感覚も生活常識も何もかもが食い違う。
水絵の不安も、鈴音の孤独も、それぞれに切実で理解できる。
水絵の息子・耕太の存在が救い。
文/ アトレ川崎店・KO
