


「雑草は踏まれても立ち上がるイメージがありますが、実際には立ち上がらないのですね。
そもそもどうして立ちあがらないといけないのでしょう。
「雑草にとって一番大事なのは花を咲かせて種を残すこと。
踏まれても立ち上がることにエネルギーを使うより、踏まれながらどうやって花を咲かせようか、種を残そうかという方が合理的と考える戦略をとるんです。」
ある時ラジオで聞いた著者の農学博士・稲垣栄洋先生のこんな話に、えっ、そうなの!?今までのイメージと全然違う!と、聞けば聞くほど目から鱗が落ちた私。
でもよく考えたら、抜いても抜いても生えてくるし、意外な場所それこそアスファルトの下からでも生えてくる。
もしかして雑草って物凄い力を秘めているのでは…?
日頃目にしたことはあっても名前さえ知らない雑草について、その戦略ともいえる逆境を逆手に取った生き方・特徴をそれぞれに解説しているのがこの本です。
例えば、ハコベの種はギザギザの突起を持っていて土に食い込みやすい形状をしており、またオオバコの種も水に濡れると膨張してくっつきやすくなるゼリー状の物質を持っていて、どちらも「踏まれるからこそ」靴の裏や車のタイヤなどについてあちこちに運ばれていく。
アスファルトを突き破ってくる雑草の一つであるハマスゲは、地表に現れる葉の部分はぺらぺらでも、地面の下に要塞のような地下茎を持っていてそこに力をためている。
そしてその細胞は10気圧くらい、なんとプロボクサーのパンチ力に相当する力を持っており、休まず成長する植物であるゆえ常にその力をかけ続けていることになり、本当にアスファルトを突き破ってしまう。
そして一度突き破ってしまうと今度はアスファルトが鎧となり、抜こうが除草剤をまこうが、一番大事な塊茎(芽を出すところ)や地下茎が守られる。
植物それぞれにこの類の特徴があることは多少知ってはいたものの、踏まれることを前提に、或いは困難な環境の下でどう生きるかという雑草のこれほどの生態には、むしろ頭が下がる思い。
こんな驚くべき雑草のお話が全50編、読み応えも十分です。
ちなみに以前に聞いたそのラジオでの稲垣先生のお話によると、雑草というものは、一気に芽を出すと全滅してしまう恐れがあることや、いつ何が起こるか分からない環境に生えることから、同じ品種の種を同時に蒔いたとしても芽を出すタイミングが個々に違っており、今!という時を見計らってそれぞれ生えてくるのだとか。
抜いても放っておいても生えてくる…そこにそんな理由もあったなんて天晴れという程の真の戦略家たち、これぞ雑草魂!
この生き方には人間も学ぶところが多いように思えてなりません。
春になりお花見もすんだら、今度はこの本を読んで足元を見ながら歩く…なんていうのも意外と楽しめるかも。
故・三上修さんによる繊細な挿絵も素晴らしく、この季節ならではのオススメの一冊です。
文/

