第153回直木賞候補の6作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。
■悠木 さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
■野口 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
■平尾 なんだか抜け出せなくなってきたな。
■野口 まあまあ。楽しみに待ってくださっている方もいるでしょうから。
■悠木 今回は、候補作6作品中、初めて候補になった作家が3人います。
■野口 平尾さんのお好きな時代小説は1作のみです。
■平尾 ああ、もうそれ受賞決定。
■悠木 それでは早速予想してまいりましょう!
東山彰良 『流』
ひがしやまあきら りゅう
講談社/1,600円+税

西川美和 『永い言い訳』
にしかわみわ ながいいいわけ
文藝春秋/1,600円+税

澤田瞳子 『若冲』
さわだとうこ じゃくちゅう
文藝春秋/1,600円+税

門井慶喜 『東京帝大叡古教授』
かどいよしのぶ とうきょうていだいえーこきょうじゅ
小学館/1,600円+税

馳星周 『アンタッチャブル』
はせせいしゅう あんたっちゃぶる
毎日新聞出版/1,850円+税

柚木麻子 『ナイルパーチの女子会』
ゆずきあさこ ないるぱーちのじょしかい
文藝春秋/1,500円+税

文/有隣堂 加藤泉
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。

■野口 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
■平尾 なんだか抜け出せなくなってきたな。
■野口 まあまあ。楽しみに待ってくださっている方もいるでしょうから。
■悠木 今回は、候補作6作品中、初めて候補になった作家が3人います。
■野口 平尾さんのお好きな時代小説は1作のみです。
■平尾 ああ、もうそれ受賞決定。
■悠木 それでは早速予想してまいりましょう!
候補作を6冊すべてご紹介しています!続きはこちら
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鼎 談 参 加 者 |
平尾才助 (55歳) --- 書店員歴33年 悠木和雅 (44歳) --- 書店員歴15年 野口魚子 (33歳) --- 書店員歴 6年 |

ひがしやまあきら りゅう
講談社/1,600円+税


- ■悠木
- 東山彰良は初ノミネートです。
- ■平尾
- オレたち今回賭けに出たな。
- ■野口
- そうですよ。候補作家だけ並べて見たら、本命は当然、馳星周だと思いましたから。
- ■平尾
- いや、しっかしこれは超弩級の作品だ。これでハズれても悔いなしだ。はらたいらに3000点!だ。
- ■野口
- 本書の舞台は1970年代後半の台湾です。ちょっと取っ付きにくそうでなかなか手が出なかったんですけど、読み始めたら面白くて面白くて。えらいパワーに圧倒されました。
- ■悠木
- 共産党から逃れ、台湾に渡ったものの、そこも中国国民党の戒厳令下に置かれていた。その不条理で混沌とした世界に生きる三世代家族に、人間の持つ生命力の強さを感じました。
- ■平尾
- ミステリーとしても引き込まれたよな。祖父を殺した犯人を高校生の主人公が10年かけて見つけ出すっていう。
- ■悠木
- 著者は「このミステリーがすごい!」大賞でデビューしていますからね。平成19年に『路傍』で大藪春彦賞を受賞しています。私もミステリー作家だと思っていたんですが。
- ■平尾
- 冒頭に「魚が言いました‥わたしは水のなかで暮らしているのだから/あなたにはわたしの涙が見えません」っていう詩が引用されてるだろ。あの詩が本文中に出てくるくだり、すごくいいんだよな。これは文学だよ。
- ■悠木
- はい。あのシーンとセリフは忘れ難いですね。
- ■野口
- 主人公の家族や友人たちのキャラクターがまた強烈ですね。
- ■平尾
- な。あの葉尊麟って爺さん最高だよな。
- ■野口
- 葉室麟?
- ■平尾
- まぁ、確かに名前似てるよな。オレも思ったよ。
- ■野口
- 女性陣が強いのもいいですね。主人公の母親なんか、怒ると鞭持ち出してくるんですよ。
- ■平尾
- チンピラもそれぞれ魅力的なんだよな。やたら迷信深かったりして。
- ■野口
- 青春小説としての魅力もいっぱいです。金城一紀『GO』を読んだときの感じを思い出しました。
- ■平尾
- そういえば金城一紀も初候補で受賞してるよな。こいつぁあいけるんじゃねえか。
- ■悠木
- もう1作見たい、とか言わせるところをねじ伏せる力のある作品であるとは思いますね。
- ■平尾
- なんか珍しく3人とも意見が合ったな。

にしかわみわ ながいいいわけ
文藝春秋/1,600円+税


- ■悠木
- 西川美和は2度目の候補です。前回は平成21年に『きのうの神さま』で候補になっています。
- ■平尾
- 読み終わったときは、これが本命!って思ったんだけどな。その後『流』を読んだのがまずかったな。
- ■悠木
- 本書は、主人公が交通事故で妻を亡くすところから始まります。愛する人を失った悲しみではなく、愛すべきだったのに愛していなかった人を亡くした後の失意、をテーマにしているところがミソです。
- ■野口
- 亡くなった奥さんは女友達と二人で旅行中でした。一緒に亡くなったその友達にも夫と小さい2人の子がいるんですよね。その夫はちゃんと、と言ったら変なんですけど、奥さんの死を悲しんでいる。主人公とは対照的に。
- ■平尾
- で、その一家と主人公が交流して傷を癒しあう話かと思いきや、そんな単純な話じゃないんだよな。
- ■悠木
- そこが著者の上手いところだと思います。テーマとしても直木賞向きだと思います。
- ■野口
- 先日発表された山本周五郎賞の候補にもなっていましたよね。
- ■悠木
- はい。選考委員は石田衣良、角田光代、佐々木譲、白石一文、唯川恵の各先生方でした。あの時は意外と辛い評価だったと記憶しています。
- ■野口
- 主人公が作家という設定がまずいんじゃないでしょうか。
- ■悠木
- 選考委員の先生方の評価は厳しくなるかもな。
- ■平尾
- そう。しかも津村啓って作家なんだけど、本名は衣笠幸夫なんだよ。なんでナガシマシゲオにしないんだよ。巨人ファンとしては納得いかねえ。
- ■野口
- そこ、どうでもいいとこですね。

さわだとうこ じゃくちゅう
文藝春秋/1,600円+税


- ■悠木
- 澤田瞳子は初ノミネートです。今回唯一の時代小説です。
- ■平尾
- さみしいよなぁ。
- ■野口
- 伊藤若冲を正面から取り上げた小説って今までなかったんじゃないですか? 絵画の人気っぷりからすると不思議な気がします。
- ■悠木
- 若冲は絵を描くこと以外に興味がなかったそうだから、小説にするのは難しかったのかもしれないな。
- ■野口
- 京都の青物問屋の長男に生まれ、23歳で家督を継ぐも絵ばっかり描いてて、40歳になった時には家業を弟に譲って隠居してしまった人ですからね。その若冲があの画風にたどり着いた経緯を、よくぞ小説にしてくれました!って感じです。
- ■平尾
- しかしよぉ、若冲は生涯妻をめとらなかったらしいんだけど、この作品では若いときに妻を不幸な形で亡くし、亡き妻の弟からえらく憎まれて、その後二人は永遠のライバルに…ってことになってる。まあ、こういうウソがつけるのがフィクションのいいところなんだけど、選考委員の先生方はどう思うかなぁ。
- ■悠木
- そうですね。難しいところですね。ただでさえ時代小説は点が辛くなりますからね。
- ■野口
- 若冲の絵って、色彩が濃厚だったり描写が緻密すぎたり、ずっと見てると酔ってきますよね。それでもついつい見入ってしまう。私、本書を読んでどうして若冲の絵に惹かれるのか分かった気がします。著者が伝えたかったのはそこなのかなぁと。
- ■悠木
- そうですね。必ずしも史実に忠実でなくてもいいと思います。小説ですから。
- ■平尾
- ま、今年は若冲生誕300年の記念すべき年だからな。ぜひ受賞して盛り上げてほしいな。

かどいよしのぶ とうきょうていだいえーこきょうじゅ
小学館/1,600円+税


- ■悠木
- 門井慶喜も初ノミネートです。
- ■野口
- 舞台は明治30年代後半の東京。日露戦争の頃です。
- ■平尾
- 主人公の名前は宇野辺叡古(うのべえいこ)。ウンベルト・エーコをもじってるんだな。こういうダジャレはすごく好きだな。
- ■野口
- 東京帝大で政治学を教える教授なんですよね。その教授のもとに熊本から一人の青年が上京してきます。
- ■平尾
- そいつに勝手に名前つけちゃうんだよな、阿蘇藤太って。
- ■悠木
- はい。藤太の正体は最後に明かされます。思いのほか壮大な結末です。
- ■平尾
- 冒頭を読むと、おっ、漱石の『三四郎』か、と思うじゃん。そんでもって途中でご本人夏目金之助も登場するんだよな。
- ■悠木
- 桂太郎や原敬といった政治家も登場します。
- ■平尾
- ダジャレでふざけているように見えて実は真面目な作品だよな。
- ■野口
- 藤太が上京してすぐ殺人事件に遭遇します。殺されたのは叡古教授と仲が悪かった帝大教授。その後も第二、第三の教授殺しがあって、叡古教授と藤太で謎を解いていきます。
- ■悠木
- 門井慶喜はもともとミステリーの作家ですからね。最近は時代ものにも挑戦しています。この作品はミステリーと時代ものを上手く融合させたように感じます。
- ■野口
- 今回はお披露目って感じですかね。
- ■悠木
- こういったミステリー作品が候補になるのは新しい流れのような気がするな。

はせせいしゅう あんたっちゃぶる
毎日新聞出版/1,850円+税


- ■悠木
- 馳星周は6回目の候補です。
- ■平尾
- なんと! まだ受賞してなかったのか。とっくに受賞してると思っていたぞ!
- ■野口
- はい。候補者のリストを見た時は、本命決定! と思ったんですけど…。あの…。その…。
- ■平尾
- 何、言葉濁してるんだよ。
- ■野口
- いえ。ノワールな馳さんのイメージとあまりにも違う作品で…。
- ■平尾
- 分かる。実績から考えればこの作家だが、この作品で獲ったらビックリだよな。
- ■野口
- 主人公は警視庁捜査一課からワケありで公安部に異動することになった宮澤という巡査部長です。彼の上司になる椿警視がとにかくハチャメチャなんです。
- ■平尾
- そう。人呼んで公安のアンタッチャブル。
- ■悠木
- 警察が舞台ですが、ハードボイルドとは対極にありますね。コメディーです。
- ■野口
- はい。何度も吹き出して笑っちゃいました。
- ■平尾
- いやぁ、ほんと驚いたな。今回一番びっくりした候補作はこれだな。この作品で受賞したらすごいことになるな。
- ■悠木
- 新境地を開いた、ということで評価されるかもしれませんよ。
- ■平尾
- まぁ、オレたちの予想は外れるけど、馳さんが受賞したらそれはそれで嬉しいよな。

ゆずきあさこ ないるぱーちのじょしかい
文藝春秋/1,500円+税


- ■悠木
- 柚木麻子は3度目の候補です。
- ■平尾
- いやぁ、きつかったな。今回読んでて一番しんどかったぞ。
- ■野口
- ある意味ホラーですよね。私も怖かったです。
- ■悠木
- テーマは「女の友情」といったところですかね。有名大学を出て商社に勤務するエリートの栄利子が、同い年の主婦翔子のブログを見て心酔し、翔子に近づいていきます。
- ■野口
- 30歳になるまで女友達を作ったことがなく、ただただ「女の友情」に憧れていたんですよね。その行為が次第にエスカレートして…。
- ■平尾
- オレには理解不可能な世界だったな。女同士ってこんなに凄まじいのか?
- ■野口
- まさか! ただ、かなりオーバーに書かれていますけど、異性より同性からの評価を重んじる風潮は強くなっている気がします。ひと昔前に比べて。
- ■悠木
- 候補作の中で一番勢いを感じたのがこの作品ですね。著者の中で書きたいものが溢れてるなぁ、と。時代の病理を抉り出すのに長けている作家なんだと思います。
- ■野口
- はい。「自分がどう思うかより、他人にどう思われるかの方が重要」っていうセリフがありますが、このあたりSNS社会の功罪を言い当ててますよね。
- ■平尾
- 確かこの前、山本周五郎賞受賞した作品だよな。本命か対抗あたりにしなくていいのか。
- ■悠木
- 山周賞作品は直木賞を逃すケースが意外と多いんです。昨年の米澤穂信『満願』も3年前の原田マハ『楽園のカンヴァス』もそうでした。
- ■平尾
- そうだよなぁ。直木賞に比べると山周賞の現選考委員の先生方はだいぶ若いからな。
- ■悠木
- ただ、これまで直木賞候補になった『伊藤くんA to E』や『本屋さんのダイアナ』に比べて相当筆力は上がってきているのを感じます。そこが評価されて受賞というのは大いに考えられますね。
- ■平尾
- 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
- ■野口
- 出会えて良かったと思える作品がありました!
- ■悠木
- 皆様にも是非、全作品読んで予想していただきたいですね。
- ■野口
- 第153回直木賞、発表は2015/7/16(木)夜です!!
- ■平尾
- 「該当作なし」だけは何としても避けてほしいな
文/有隣堂 加藤泉
第153回 直木賞は
東山彰良『流』が受賞しました
東山先生、おめでとうございます!
東山彰良『流』が受賞しました
東山先生、おめでとうございます!
