第154回直木賞候補の5作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。■悠木 さあ、直木賞の季節がやってまいりました。
■野口 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
■平尾 米澤穂信の『王とサーカス』 が入ってないじゃないか!
■野口 宮内悠介の『エクソダス症候群』 もです!
■平尾 伊東潤の『鯨分限』 もだぞ。
■野口 候補作が発表になる前からヤマを張って文芸書を読み漁った我々の努力が水の泡です!
■平尾 いやいやいや、今回は本当に難しいぞ。
■悠木 はい。5作中、2度目の候補の青山文平を除いて4人が初候補。その4人とも女性です。
■野口 混戦模様ですね。
■悠木 それでは、早速予想してまいりましょう!
候補の5作品をすべてご紹介しています! 続きはこちら
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鼎 談 参 加 者 |
平尾才助 (55歳) --- 書店員歴33年 悠木和雅 (44歳) --- 書店員歴15年 野口魚子 (33歳) --- 書店員歴 6年 |

あおやま・ぶんぺい
文藝春秋/1,500円+税


- ■悠木
- 青山文平は、前々回『鬼はもとより』で候補になっています。
- ■野口
- 1948年生まれの67歳。今回の候補作家の中で最年長ですね。
- ■平尾
- ああ。もう受賞決定だな。はい、次いこう。
- ■野口
- ちょっと待ってください! もう少ししゃべらせてください。
- ■悠木
- 江戸中期の武家社会における「夫婦」がテーマと言っていい短編集ですね。
- ■平尾
- 女は強い! 怖い! って感じの話が多かったよな。
- ■悠木
- 武士のアイデンティティが揺らぎ始めているこの時代を書かせると本当に上手いですね、青山さんは。
- ■野口
- これまで骨太なイメージの作品ばかりでしたが、今回は男女を描いていたり、女性が主人公の短編があったりと、新しさが評価されると思います。ただ…
- ■平尾
- 何、言葉濁してんだよ。
- ■悠木
- まあ、地味ですね。渋い作品です。
- ■野口
- はい。盛り上がりに欠ける感じはします。
- ■平尾
- おいおい、本命に推しておきながらそれはないんじゃないか? いいんだよ、今回は大人の直木賞ってことで。
- ■悠木
- 二作受賞も大いに考えられますからね。

ゆづき・ゆうこ ころうのち
KADOKAWA/1,700円+税


- ■悠木
- 柚月裕子は1968年生まれ。2008年に『臨床心理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビュー。その後コンスタントに作品を刊行しています。
- ■平尾
- 舞台は昭和63年の広島県。呉市とおぼしき町を舞台にした警察小説、というかヤクザ小説だ。べらぼうに面白かったぞ。「仁義なき戦い」の世界だな。♪チャララ~チャララ~
- ■悠木
- ヤクザとの癒着が疑われる大上という刑事の下に配属された、日岡という新米刑事の視点で描かれています。かなり男臭い小説ですが、野口はどうだった?
- ■野口
- 勢いがあるというかスピード感があるというか、今回の候補作の中でリーダビリティがピカイチでした! 読み終わった後しばらく広島弁が抜けなかったです。
- ■平尾
- そうじゃろうのう。
- ■野口
- 何がすごいって、これだけ広島弁を使いこなしながら、著者の柚月さんは東北生まれの東北育ちなんですよ。てっきり広島出身だと思いました。
- ■悠木
- 今年『ウツボカズラの甘い息』という長編も刊行していますが、『孤狼の血』と共通しているのは、罪もなく殺されていった人間の無念を晴らす、という警察の矜持が描かれているところです。
- ■野口
- 死体が発見されるシーンが出てくるんですけど、死臭まで感じられるくらいリアリティがありました。
- ■平尾
- あれは印象深い場面じゃけえ。
- ■野口
- 私、ハンバーガー食べながら読んでたんですけど、途中から食べられなくなっちゃいました!
- ■平尾
- 食べながら読んだらいけん言うとるじゃろ!
- ■悠木
- リーダビリティもさることながら、構成の妙も本作品の特徴です。各章の冒頭に日岡の日誌が記されていますが、ところどころ塗りつぶされているんですよ。
- ■野口
- その意味が分かった時、思わず唸りましたね。
- ■悠木
- 最後は年表で終わっていたり。こういったディテイルを選考委員の先生方が評価するか、あざといと感じるかは難しいところですが。
- ■平尾
- 今から選評が楽しみじゃけえ。

みやした・なつ ひつじとはがねのもり
文藝春秋/1,500円+税


- ■悠木
- 宮下奈都は1967年生まれ。2004年から小説を書き始め、2007年『スコーレ№4』で単行本デビューして以来、根強い人気のある作家です。温かい読後感に定評があります。
- ■野口
- 宮下さんが候補になって本当に嬉しいです! 今まで候補にならなかったのがおかしいくらいです。
- ■悠木
- ピアノの調律師を目指す青年の成長物語です。こんなふうに一言で説明してしまってはこぼれ落ちてしまう美しさがこの本にはたくさん詰まっています。
- ■平尾
- なんだよ、やけに詩的じゃねえか。
- ■野口
- ピアノが弾けるわけでも特に音感が優れているわけでもない控えめな主人公が、調律という仕事に誠実に向き合う。そのひたむきさに胸を打たれますね。
- ■平尾
- ストーリーにはさほど起伏はないけど読ませるよな。タイトルもいいし。
- ■野口
- ピアノは、羊毛のフェルトでできたハンマーで鋼の弦を叩くと音が鳴る楽器です。ピアノを表した、素敵なタイトルですね。
- ■悠木
- 文章もとにかく美しいです。「ピアノが、どこかに溶けている美しいものを取り出して耳に届く形にできる奇跡だとしたら、僕はよろこんでそのしもべになろう」など、印象に残る言葉がたくさん出てきます。
- ■平尾
- 文芸評論家の市川真人氏も「村上春樹さんの良さと小川洋子さんの良さを足したよう」と絶賛してたぞ。直木賞ってより芥川賞向きなんじゃないか?
- ■野口
- ぐっ。それを言われると言葉に詰まります。
- ■平尾
- だから「大穴」にとどめておいたってわけだな。
- ■悠木
- 仕事でも趣味でも「才能」の壁にぶつかっている方がいたら、この本をぜひおすすめしたいですね。

かじ・ようこ よいとよ
講談社/1,800円+税


- ■悠木
- 梶よう子は2008年『一朝の夢』で松本清張賞を受賞してデビュー。
- ■野口
- その後もコンスタントに作品を発表して、今回初ノミネート…って、柚月さんも宮下さんもそうですよ!
- ■平尾
- 今までなかなか候補に名前の挙がらなかった実力のある作家が、ようやく脚光を浴びてきた感じだよな。
- ■悠木
- この『ヨイ豊』では、江戸から明治に移り変わる時代の絵師たちの姿が描かれています。当代きっての花形絵師、三代歌川豊国の弟子・清太郎が主人公です。
- ■野口
- 三代豊国は、広重、国芳とともに「歌川の三羽烏」と呼ばれ、一時代を築いた大物です。
- ■平尾
- 問題は、三代亡き後、誰が「豊国」の名跡を継ぐか、なんだよな。
- ■野口
- はい。三代の娘婿でもある清太郎が筆頭候補のはずなんですが、なかなか首を縦に振りません。「豊国」の名前が大きすぎるのと、自分よりも才能溢れる弟弟子に気兼ねしていたりと…。
- ■平尾
- 「才能」ねぇ。『羊と鋼の森』を読ませてやりてえな。
- ■悠木
- 清太郎は三代から生真面目さを見込まれているけれど、絵の才能はそれほどでもない人物として描かれています。
- ■野口
- そこなんですよ。三代豊国や、弟弟子の八十八、歌舞伎役者の團十郎など、周りの登場人物に比べるとこの主人公は魅力に乏しいと思ってしまうのですが。
- ■悠木
- まあ、そうだけどな。中間管理職の辛さが分かるサラリーマンは清太郎に共感するんじゃないか。
- ■平尾
- そうだな。オレは『ヨイ豊』ってタイトルの意味が分かった時、泣いたぞ。
- ■悠木
- 江戸時代には「憂き世」を「浮き世」として笑い飛ばす熱があった。それが文明開化のもと失われていく。時代の変化もよく描かれていると思います。
- ■野口
- 芝居も錦絵も突き詰めればあってもなくてもいいもの。けれど、そうした要らないもののほうが人を惹きつける、憂いの世を面白おかしい浮き世に変えることができる、というセリフが出てくるんですけど、ここに一番グッときました。
- ■平尾
- 小説も同じかもしれないな。
- ■野口
- 今回候補に入って一番ビックリしたのはこの作品です。
- ■平尾
- なんてったって『王とサーカス』『エクソダス症候群』を蹴落として東京創元社枠を勝ち取ったんだからな。
- ■野口
- そんな枠あるんですか!
- ■悠木
- ないでしょう。
- ■野口
- 深緑野分さんは1983年生まれ。神奈川県出身です。
- ■悠木
- 神奈川を本拠地とする我々としては嬉しいかぎりですね。
- ■野口
- そしてなんと、2013年にデビューしたばかり。『戦場のコックたち』は2冊目の著書です。ぎゃふん!って感じですね。
- ■平尾
- ワシの周りでは、よくぞ候補にしてくれた!って称賛の声が多数上がってるぞ。
- ■野口
- 第二次世界大戦、ノルマンディー上陸作戦時の米軍コック兵が主人公の長編です。本文だけ読んだら、翻訳ものだと騙されても疑わないと思います。
- ■平尾
- これまでの候補作の中でも異色だよな。
- ■野口
- 版元は東京創元社だし、年末恒例の「このミステリーがすごい!」2位、「週刊文春」ミステリーベスト10の3位だったりと、ミステリー色が強いのかな、と思って読み始めたんですが…。
- ■悠木
- 最初のうちは「日常の謎」的な感じですが、章が進んでいくにつれ、すなわち戦況が進んでいくにつれ謎解きのほうも深刻なものになっていきます。
- ■平尾
- これは戦争小説だよな、すごく読み応えのある。謎解きの部分は不要だと思ったぐらいだぞ。
- ■野口
- 青春小説でもあります。エピローグは号泣しながら読みました。
- ■悠木
- 選考委員の中に戦争小説の名手、浅田次郎先生がいらっしゃいます。浅田先生がどのように評価なさるのかが明暗を分けそうですね。
- ■平尾
- 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
- ■野口
- 出会えて良かったと思える作品がありました!
- ■悠木
- 何度か候補になっている作家だと、前に候補になった時の選評を読んで選考委員の先生方がどのように評価なさるか予想しやすいのですが、今回はフレッシュな顔ぶればかりですからね。
- ■平尾
- 本当に難しかったな! もうこりごりだ。
- ■悠木
- 皆様にも是非、全作品読んで予想していただきたいですね。
- ■野口
- 第154回直木賞、発表は2016/1/19(火)夜です!!
- ■平尾
- 「該当作なし」だけは何としても避けてほしいな。

ふかみどり・のわき せんじょうのこっくたち
東京創元社/1,900円+税


文/有隣堂 加藤泉
【追記】
第154回直木賞は
青山文平『つまをめとらば』
が受賞しました
おめでとうございます!
第154回直木賞は
青山文平『つまをめとらば』
が受賞しました
おめでとうございます!
