


前書きにある「たべものの味にはいつも、思い出という薬味がついている…」という一文だけで「間違いない!」と確信し、ワクワクとはやる心を抑えながら読んだ一冊。
著者の「たべもの」にまつわる思い出の数々が、時に切なさや甘酸っぱさをまとって丁寧に綴られてゆきます。
これだけでもそこに自身の記憶を重ねて思い出に浸ってしまうというのに、加えて細かい描写に溢れる「シズル感」といったらもうたまりません…!
著者本人による美しい挿絵もあいまって、自身が口にしたことのあるたべものは勿論のこと、そうでなくとも思わず「そうそう!」と膝を打ってしまう程。
直接的に舌を刺激する今どきのグルメ本なんかには真似できない、心を丸ごと持っていかれる感覚のなんて心地よいことか。
たべものの味は味覚だけでなく五感で味わっているということを改めて実感し、読み終える頃には心の深いところにしまいっぱなしの記憶の欠片を取り出してひとつひとつを愛でてあげたくなるような、そんないとしさで胸いっぱいになりました。
やっぱり食べることは生きることなんだなあ。
文/ STORY STORY(小田急百貨店新宿店本館10F)・HS
