第155回直木賞候補の6作を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。
■悠木 さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
■野口 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
■平尾 今回は誰が受賞してもおかしくないな。
■悠木 初候補の作家が一人もいないですからね。
■野口 しかも版元もバラバラです。仁義なき戦いって感じですね。
■平尾 いや~、今回は本当に難しいぞ。
■野口 平尾さん、それ毎回言ってますね。
■悠木 それでは、早速予想してまいりましょう!
伊東潤 『天下人の茶』
いとう じゅん
文藝春秋/1,620円+税

荻原浩 『海の見える理髪店』
おぎわら ひろし
集英社/1,512円+税

原田マハ 『暗幕のゲルニカ』
はらだ まは
新潮社/1,512円+税

門井慶喜 『家康、江戸を建てる』
かどい よしのぶ
祥伝社/1,944円+税

湊かなえ 『ポイズンドーター・ホーリーマザー』
みなと かなえ
光文社/1,512円+税

米澤穂信 『真実の10メートル手前』
よねざわ ほのぶ
東京創元社/1,512円+税

※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。

■野口 今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
■平尾 今回は誰が受賞してもおかしくないな。
■悠木 初候補の作家が一人もいないですからね。
■野口 しかも版元もバラバラです。仁義なき戦いって感じですね。
■平尾 いや~、今回は本当に難しいぞ。
■野口 平尾さん、それ毎回言ってますね。
■悠木 それでは、早速予想してまいりましょう!
候補の6作品をすべてご紹介しています! 続きはこちら
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鼎 談 参 加 者 |
平尾才助 (55歳) --- 書店員歴33年 悠木和雅 (44歳) --- 書店員歴15年 野口魚子 (33歳) --- 書店員歴 6年 |

いとう じゅん
文藝春秋/1,620円+税


- ■悠木
- 伊東潤は5回目の候補です。
- ■平尾
- ああ。もう決まりだな。はい、次いこう。
- ■野口
- ちょっと!もう少し議論しましょうよ。
- ■悠木
- 伊東潤は、第146回(平成23年下半期)に『城を噛ませた男』で初めて候補になり、その後、第148回(平成24年下半期)から150回(平成25年下半期)まで3回連続で候補になっています。
- ■野口
- 私たち、もう何度も伊東さんには賭けてきましたからね。伊東さんもここが年貢の納め時です。
- ■平尾
- おい、日本語の使いかた間違ってるぞ。
- ■野口
- やはり、この仁義なき戦いを制するのは伊東さんぐらいのコワモテでないと…。
- ■平尾
- 伊東さんには、弊社の機関紙「有鄰」最新号にもご寄稿いただいてるからな。本命にしないわけにはいかないだろう。
- ■野口
- そんな理由ですか!
- ■平尾
- まあそれは置いといて、これはもう紛れもない本命だな。この本が発売になった時、満を持して、って感じがしたもんな。版元も文春だし。
- ■悠木
- 今回の候補作『天下人の茶』は、茶の湯の創始者であった千利休を、弟子たちの視点から描いた短編集です。もちろん「弟子」の中には秀吉も含まれます。
- ■野口
- 利休と言えば、今は亡き山本兼一さんが『利休をたずねよ』で第140回直木賞を受賞なさってますよね。
- ■平尾
- おお、そうだな。様々な趣向を凝らして利休像に迫った素晴らしい作品だった。『天下人の茶』には、また違った面白さがあるな。
- ■悠木
- 『天下人の茶』は、利休の美学を追究しつつ、茶の湯がいかに歴史を動かしたか、を描いた作品ですね。
- ■平尾
- かなり大胆な歴史的解釈がなされているからな。選考委員の先生方がどのように評価するか楽しみだな。
- ■野口
- 装丁も素晴らしいですからね。読者の皆様には是非お手に取って確かめていただきたいですね。

おぎわら ひろし
集英社/1,512円+税


- ■野口
- 荻原浩も5回目の候補ですね。
- ■悠木
- 直近で候補になったのは第144回(平成22年下半期)ですね。
- ■平尾
- だいぶご無沙汰だな。
- ■悠木
- 荻原浩は1956年生まれ。今回の候補作家の中では最年長です。
- ■平尾
- 記念すべき還暦の年に是非受賞してほしいものだな。
- ■野口
- 今回の候補作は短編集なんですが、主人公がお年寄りから子どもまでヴァラエティに富んでいて、これだけ違う人物たちを巧みに描き分けられるのはさすが荻原さんだな、と思いました。
- ■平尾
- そうだな。上手さが光るな。オレはやっぱり表題作がよかったな。
- ■悠木
- 私は最後の「成人式」という短編が心に残りましたね。最も荻原さんらしい作品じゃないですか。
- ■野口
- 読み終わった後、こんなふうにどの短編が良かった?って誰かと話したくなりますよね。
- ■悠木
- 連作ではない短編集というのはハンデになるかもしれませんが…。
- ■平尾
- 選考委員の浅田次郎先生だって短編集『鉄道員(ぽっぽや)』で受賞してるんだから、そうも言えないだろう。
- ■野口
- そうですね。今回は2作受賞の線が濃厚ですね。

はらだ まは
新潮社/1,512円+税


- ■平尾
- いやぁ。ここからは本当に難しいな。
- ■野口
- 大穴でこんなに悩むとは!
- ■悠木
- 今回の候補作6作中、長編はこの『暗幕のゲルニカ』だけなんですよね。
- ■平尾
- なるほど。それはポイントが高いかもしれないな。
- ■悠木
- 原田マハは3度目の候補です。第147回(平成24年上半期)で『楽園のカンヴァス』、第149回(平成25年上半期)で『ジヴェルニーの食卓』が候補になっています。
- ■野口
- 今回候補になった『暗幕のゲルニカ』は、『楽園のカンヴァス』の流れを汲む作品ですね。
- ■悠木
- 『ジヴェルニーの食卓』の選評に、『楽園のカンヴァス』に比べると大人しい印象、と書いていらした選考委員の先生方が多かったので、今回は直木賞好みと言えるかもしれません。
- ■野口
- 『楽園のカンヴァス』ではアンリ・ルソーの「夢」という絵画を題材にしていました。今回はパブロ・ピカソの「ゲルニカ」です。
- ■平尾
- これも、満を持して、って感じなんだよな。
- ■悠木
- ピカソが活躍した1930~40年代のパリを舞台にしたパートと、現代のニューヨークを舞台にしたパートが交互に描かれる構成になっています。
- ■野口
- ピカソのパートが本当に素晴らしいですよね。スペイン内戦を憂えたピカソが「ゲルニカ」を描いたあたりのことがよく分かりました。
- ■悠木
- 現代のパートは、ニューヨーク近代美術館でキュレーターとして働いているヨーコが主人公です。3.11で夫を失った彼女が、平和の象徴として「ゲルニカ」を守ろうとする姿が描かれています。
- ■野口
- 「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ」というテーマも一貫していますね。
- ■平尾
- ただ惜しむらくは、ミステリー要素の強い現代のパートが、後半とっちらかっちゃうんだよなぁ。
- ■野口
- 思いも寄らぬ展開、とも言えますね。
- ■悠木
- そこをどう評価されるかが分かれ目になるでしょうね。

かどい よしのぶ
祥伝社/1,944円+税


- ■悠木
- 門井慶喜は2回目の候補です。
- ■野口
- 第153回(平成27年上半期)で『東京帝大叡古教授』が候補に挙がりました。
- ■平尾
- いやはや、今回の候補作は面白かったぞ! 街作りのプロジェクトXって感じだな。
- ■野口
- はい。家康が秀吉から関東八州を与えられるところから始まります。家康の家臣たちは烈火のごとく怒るんですよ。なぜなら、当時の江戸は低湿地が広がる土地で、豊饒な家康の所領と取り換えよ、という要求だったからです。
- ■悠木
- この命令を受け入れた家康は、利根川の治水を行ったり、小判の鋳造、上水道整備などに取り掛かります。今日の東京の礎を築いたと言えますね。
- ■野口
- 家康って、たぬきおやじみたいなイメージですけど、この本を読んで見る目が変わりました。
- ■平尾
- ずば抜けた政治家だったことが分かるな。適材適所に人材を配しているし。
- ■悠木
- 私の周りでもとても評判がいい1冊です。
- ■野口
- 時代小説同士ということで、伊東さんといい勝負になるんじゃないですか?!
- ■平尾
- ただ、伊東潤と比べると時代小説としての文章がこなれていない感があるからなぁ。今回の受賞は難しいかもしれないが、次もこういったテーマでぜひ時代小説を書いてほしい作家だな。

みなと かなえ
光文社/1,512円+税


- ■悠木
- 湊かなえは2回目の候補です。
- ■平尾
- イヤミスの女王、健在!って感じの短編集だったな。
- ■野口
- 第149回(平成25年上半期)で候補になった『望郷』のイヤミス度はそれほど高くなかったですからね。選考委員の先生方の反応が今から楽しみです。
- ■悠木
- 今回の候補作のテーマは「毒親」です。
- ■平尾
- おいおい、なんだよ、そりゃ。
- ■野口
- 最近、よく聞く言葉ですね。子どもの人生を支配する親、といった意味でしょうか。
- ■悠木
- 湊かなえが得意そうなテーマですね。
- ■平尾
- オレはついていけねえな。そりゃあ見方によって、親は毒にも薬にもなるだろうよ。
- ■悠木
- 表題作となっている2編にどうしても話題が集中しがちですが、「ベストフレンド」「優しい人」など、ミステリーとして読ませる短編も入っていますよ。
- ■野口
- ただ、湊さんは長編で受賞してほしい気もしますね。抜群のリーダビリティで、読者をぐいぐい引っ張ってってくれる作家ですから。

よねざわ ほのぶ
東京創元社/1,512円+税


- ■野口
- 米澤穂信も2回目の候補です。第151回(平成26年上半期)に『満願』で候補になっています。
- ■平尾
- おお。あの時の選評は厳しかったんだよな。初登板で満塁ホームランくらったピッチャーみたいで気の毒なくらいだったぞ。
- ■悠木
- 『満願』が直木賞候補になった時、既に同作品で山本周五郎賞を受賞していましたからね。その影響で評価がかなり厳しくなったというのはあるでしょうね。
- ■野口
- 選考委員の浅田次郎先生は「稀有の資質を具えた作家が、同一作品で文学賞を連覇することはさほど幸福な結果とは思えぬ」とおっしゃっていましたね。
- ■悠木
- この『真実の10メートル手前』も『満願』に負けるとも劣らない見事な短編集です。私としては本命にしたいくらいですが。
- ■野口
- はい。なんかこういう人間の面倒くささ、分かる分かる~と思いながら読んでました。「人間が書けてる」ってやつですね。
- ■平尾
- ずいぶん偉そうだな。
- ■野口
- えへへ。
- ■悠木
- タイトルもいいですよね。報道と真実の間で揺れ動くジャーナリストの主人公の苦悩が感じられます。
- ■平尾
- 大穴くらいには入れといたほうがいいんじゃないか?
- ■悠木
- そうなんですよねぇ。ちなみに、昭和53年生まれの米澤穂信は、今回の候補作家の中では最年少です。
- ■野口
- こんなに若いうちからこれくらい書けるんだからいずれ受賞するだろう、今回は、まいっか、ということになりそうですね。
- ■悠木
- そこなんですよ。あの道尾秀介でも、才能を認められながら4回落選していますからね。
- ■平尾
- 獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす、って心境で臨むかもしれないな。選考委員の先生方は。
- ■平尾
- 以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
- ■野口
- 出会えて良かったと思える作品が今回もありました!
- ■平尾
- 初候補の作家が多いと選考委員の傾向が分からなくて難しい!とか前回言ったけど、ありゃ嘘だな。
- ■野口
- 初候補がいなくてもやっぱり難しいですね。
- ■悠木
- 皆様にも是非、全作品読んで予想していただきたいですね。
- ■野口
- 第155回直木賞、発表は2016/7/19(火)夜です!!
- ■平尾
- 「該当作なし」だけは何としても避けてほしいな。
文/有隣堂 加藤泉
【2016/7/19追記】
第155回直木賞は
荻原浩『海の見える理髪店』
が受賞しました
荻原先生、おめでとうございます!
第155回直木賞は
荻原浩『海の見える理髪店』
が受賞しました
荻原先生、おめでとうございます!
