


秋をテーマにした歌謡曲が、街に流れる季節になりました。
でも、お別れの物語が多いですね。
『たそがれマイ・ラブ』(作詞:阿久悠 作曲:筒美京平 歌:大橋純子)も、そのうちの1曲。
歌謡曲は、リリース後、製作者サイドの手を離れると、聞いているファンの心に寄り添います。
解釈は人それぞれ。
でも、なんとなく、製作者サイド――つまり、阿久悠さんですね――は、何を意図して作詞したのか、考えてみました。
『たそがれマイ・ラブ』の主人公は、ひょっとしたら『舞姫』のモデル、エリスでしょうか?
『たそがれマイ・ラブ』は森鴎外を主人公にした特別ドラマの主題歌だったから、この説は信憑性があるのでは……?
明治の文豪、夏目漱石と森鴎外。
たびたび比較される2大巨頭ですが、平成の今、どちらが読まれているかだけ単純に考えると、夏目漱石のほうに軍配が上がります。
テーマが私たちのこころに寄り添う内容でも、森鴎外は読まれないどころか知られていません。
原因は、おそらく文体。明治雅文体のフィルターは、平成のサーチライトを容易には通しません。
何かをきっかけに苦手意識を埋め込まれた人ならば、一生、避けてとおるでしょう。
ちくま文庫から、井上靖訳『舞姫』が、出版されています。
鴎外の原文や、エリスに関する資料も付いた、ユニークな文庫です。
いくら美文といえども味わう訓練をしていないのでは、読書ではなく暗号解読に近く、文章にふれること自体が苦手になってしまう。これは一大事、一生の問題。
ひとまず、作品の内容を理解したうえで挑めば、昔の文体に対する苦手意識も払拭されます。
同じようなことを様々な作品で繰り返すと、今はもういない人たちの心の持ちようがわかり、現代にフィードバックすることもできます。
「あなたが、豊太郎の立場だったらどうするか?100字で書け」という問題は、さすがに試験には、出ないでしょう。文学は、歌謡曲のように身近で、楽しくて、相談に乗ってくれて、心を豊かにしてくれるお友だちです。
文/ 藤沢店・H.O.
