第161回直木賞(2019年7月発表)大予想
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第160回直木賞候補の5作品を、受賞予想の鼎談形式でご紹介!
※ この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません。

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悠木 さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。

野口 今回は読破するのが本当に大変でした!

悠木 5冊合わせて2,488ページ。近年では最も分量の多い候補作群です。

平尾 二段組がないだけ良かったな。

野口 この努力が報われるためにも当てたいですね!

平尾 いやいや、今回は相当難しいぞ。皆目見当がつかないな。

野口 今回は、って! いつものことじゃないですか!

平尾 ああ。前回の予想なんて自信まんまんだったのに、かすりもしなかったからな。おお、恥ずかしい!

悠木 まあまあ。このハズレっぷりを楽しみにしてくださっている読者の方も少なからずいることでしょうから。

野口 そうですよ。はらたいらに賭けて当たった時よりも、篠沢教授に全部賭けてハズれた時のほうが面白いじゃないですか。

平尾 野口、その比喩は全然うまくないぞ。それにお前、本当に33歳か?

野口 年齢の話ですが、今回の候補作家の平均年齢は40.4歳。若いですね。新しい世代の作家の力作が揃った印象です。

悠木 それでは、早速予想してまいりましょう!

候補の5作品をすべてご紹介しています
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↓↓↓    

鼎 談 参 加 者
平尾才助 (55歳) --- 書店員歴33年
悠木和雅 (44歳) --- 書店員歴15年
野口魚子 (33歳) --- 書店員歴 6年

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垣根涼介 『信長の原理』
かきね・りょうすけ のぶながのげんり

KADOKAWA/1,800円+税

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野口 垣根涼介は2回目の候補です。

悠木 現代エンターテインメントのイメージが強い作家でしたが、2013年『光秀の定理(レンマ)』を刊行して以来、歴史・時代小説を書き続けています。

平尾 いやぁ、この作品は面白かったぞ。2016年に候補になった『室町無頼』も面白かったけどな、さらに風格が増した感じだな。

悠木 信長という歴史上の超有名人物を取り上げるのは勇気が要ることと思います。

野口 人を人とも思わない短気で無礼で傲岸な信長の、「欠陥をすべて掻き集めてもまだ見劣りしないほどの玉(ぎょく)のような煌(きら)めき」(p.532)が伝わってくる作品です。

平尾 周囲から見た信長像だけでなく、信長自身の視点で描かれた前半部が秀逸だな。効率を何より重視して、物事の根本原理をとことん突き詰めて考える信長の性格がきっちり描かれている。

悠木 有名な「働き蟻の法則」に気付くところですね。どんなに優秀な人材を集めた組織でも、2:6:2の比率でよく働く者、漫然と働く者、怠ける者に分かれるという……。

野口 この法則を組み込んだことによって、この作品は俄然面白くなっていますよね。5人の重臣、羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益の中から1人、自分を裏切る者が出ると信長は予測していた!

平尾 重用されていた光秀が次第に疲弊していき、本能寺の変になだれ込んでいく後半は、まさにページを捲る手が止まらなかったな。歴史的事実を知っていても心臓がバクバクしたぞ!

野口 歴史・時代小説の難しいところは、選考委員の先生に思わぬところで厳しい減点をされるところですね。

悠木 この作品は山田風太郎賞の候補にもなったのですが、選考委員の林真理子先生は「最後まで、『蟻の原理が人間にもあてはまるだろうか?』という疑問はぬぐえなかった」と評価していらっしゃいました。

野口 林先生は直木賞の選考委員も兼ねていらっしゃいますからね。ううむ。

平尾 蟻が勝敗を分けるな。


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森見登美彦 『熱帯』
もりみ・とみひこ ねったい

文藝春秋/1,700円+税

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悠木 森見登美彦は3度目の候補です。

野口  2007年に『夜は短し歩けよ乙女』で、2016年に『夜行』で候補になっています。

平尾 モリミーまだ受賞してなかったのかい、って感じだよな。

悠木 『夜は短し歩けよ乙女』山本周五郎賞、『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞していますからね。既に、人気・実力を兼ね備えた中堅作家です。

野口 そういえば、かなり前ですが垣根涼介さんも『君たちに明日はない』で山周賞を受賞しています。今回も前回同様、山周賞作家が2人いるんですね。

悠木 直木賞は実績のある作家への功労賞的な意味合いもありますから、森見さんの受賞は大いにあり得ると思いますよ。

平尾 ただ、どうしてもこういう幻想的な作品は、直木賞とは相性が悪いんじゃないかと思ってしまうな。正直言ってオレは 最 後 ま で 読 め な か っ た

野口 そ、それって、まさに……。

平尾 だろ? 悠木、この作品について解説しろ。

悠木 最後まで読んだ人間はいないといわれている幻の小説『熱帯』。佐山尚一という作家が1982年に刊行したこの本に取り憑かれた者たちが、謎を解明しようと奔走する冒険譚です。

野口 『熱帯』という小説の中に『熱帯』という小説が登場して、入れ子構造になっている作品です。さらに、佐山版『熱帯』の物語と登場人物たちの物語がシンクロしたりして、読んでいて迷路に入ったような感じになることがしばしばありました。

悠木 確かに、相当難しい作品ですね。森見さん独特の世界観です。

平尾 最後まで読めない本があるってことはオレが確かに証明したからな。

野口 平尾さんの場合は挫折しただけでしょう。

悠木 ただ、小説愛が感じられる作品であることは確かです。「小説というものは、誰々が何をしてどうなったというふうに要約してみたところで、あんまり意味はないものです。登場人物たちと一緒になってその世界を生きて、夢中になって読んでいる間だけ存在している。そこが一番小説にとって大事なことです」(p.38)というセリフどおりの作品なのだと思います。

平尾 この小説観が選考委員の先生方にどう響くか、だな。


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深緑野分
『ベルリンは晴れているか』

ふかみどり・のわき
べるりんは はれているか


筑摩書房/1,900円+税

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野口 深緑野分は2回目の候補です。

悠木 2015年に『戦場のコックたち』で候補になった時は、どうして第二次大戦のヨーロッパ戦線の、しかもアメリカ軍の兵士たちの話を、日本人が日本語で描かなければならないのか、ということが選考の席で大いに議論されたようです。

野口 その点に関しては桐野夏生先生が「どの時代のどんな人物を題材にしようが、文学は自由だ。問題は描かれるテーマにあって、この自由さを失っては小説は消滅する」と一刀両断した選評を書かれていましたね。惚れてまうやろ!ってくらいカッコよかったです。

悠木 さて、今回の候補作『ベルリンは晴れているか』は、ナチス・ドイツが戦争に敗れ、米ソ英仏の4ヵ国統治下に置かれたベルリンが舞台です。

野口 主人公はドイツ人少女アウグステ。彼女の恩人にあたる男が不審な死を遂げます。アウグステは彼の甥に訃報を伝えるべく旅立ちます。

平尾 なぜか陽気な泥棒を道連れにすることになるんだよな。このあたりはバディもののロードムービー的な面白さがある。

悠木 敗戦国の悲惨さがしっかりと描かれていて、戦争は一人の人間にとって大切なものをかくも簡単に奪うということをまざまざと教えてくれる作品だと思います。

野口 男を殺したのは誰なのか?というミステリー的展開の途中に、主人公の過去が明かされていく構成も上手いですよね。

平尾 受賞の可能性も高いんじゃないか?

悠木 そうですね。そこが本当に難しいところで、『戦場のコックたち』が候補になった時のように、他国の戦争ものということでひとつハードルがあり、さらにミステリーとしての完成度はどうなのかという、より高いハードルがあります。選考委員の先生方はその道の大家の方々ですからね。深緑さんは本当に難しいジャンルに挑戦していると思います。

野口 個人的にはこの作品が受賞してくれたらすごく嬉しいですが、受賞するしないにかかわらず、多くの方に読んでほしい作品です。


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今村翔吾 『童の神』
いまむら・しょうご わらべのかみ

角川春樹事務所/1,600円+税

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野口 今村翔吾は初めての候補です。

平尾 いやぁ、ものすごく面白かったな!

野口 本作の舞台は平安時代の京周辺です。当時、「滝夜叉」「土蜘蛛」「鬼」「山姥」などと呼ばれ、山に暮らして朝廷に帰属しない、虐げられた身分のひとびとがいたそうです。

平尾  そいつらの総称が「童(わらわ)」なんだな。

野口 一方、越後の有力者の家に生まれながら、父を殺され故郷を追われた桜暁丸(おうぎまる)という若者が、公家たちに復讐せんがために童たちと手を組みます。

悠木 源頼光と四天王に討たれた酒呑童子の伝説を基にしている作品です。

野口 ひとりひとりのキャラが立っていて、エンターテインメントとしても楽しめましたが、身分制度や差別とか偏見の愚かさについてもとても考えさせられました。

平尾 現代にも通じるテーマだな。

悠木 そうなんです。今回の候補作には、違う時代や他の国の話でありながら、今の私達の身の回りにある問題について考えさせるような作品が多いんです。『信長の原理』も戦国時代の話ですが、昨今の成果主義の功罪に通じるものを感じさせる作品です。

野口 この作品は角川春樹小説賞という公募の文学賞を受賞していますが、選考委員の北方謙三先生は「小説的な重層性があり、書き手の力量を感じた、抜群の作品」と絶賛していらっしゃいましたね。

平尾 北方謙三は直木賞の選考委員でもあるじゃないか。これはすごい追い風なんじゃないか。

野口 いや、でもまたアレがあるんじゃないですかね。

平尾 ああ、「もう一作」のアレな。でも、この作品が受賞しても全然驚かないな。


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真藤順丈 『宝島』
しんどう・じゅんじょう たからじま

講談社/1,850円+税

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野口 真藤順丈も初めての候補ですね。

平尾 よっ、久しぶり!って感じがするのはなんでだろうな。

悠木 ちょうど10年前、4つの新人賞を相次いで受賞してデビューした頃のイメージが強烈だからではないでしょうか。

平尾 おお! 覚えてるぞ。『地図男』とか『庵堂三兄弟の聖職』とかな。

悠木 今回候補になっている『宝島』は既に山田風太郎賞を受賞しています。

平尾 垣根涼介の『信長の原理』と争って受賞したってことか? おいおい、こっちを本命にしたほうがいいんじゃないか?

野口 平尾さん、落ち着いてください。ちゃんと話し合いますから。

悠木 『宝島』の舞台は戦後の沖縄です。米軍基地から物資を略奪する3人の若者を中心に、終戦後の1952年から日本に返還される1972年までの沖縄の様子が、実際に起きた事件や、実在した人物を織り交ぜながら描かれています。

野口 山田風太郎賞の選考では、この作品の持つ「熱量」が高く評価されました。

平尾 確かに凄まじいエネルギーを感じる作品だな。

悠木 基地問題も含めた戦後史に加え、もともと沖縄に備わっている風土の力も強く伝わってきます。こういう土着的な作品は直木賞には強いと思います。

平尾 だったらなんで本命にしないんだ?

悠木 先ほど、平尾さんは「久しぶり」とおっしゃいましたよね。

平尾 ああ。

悠木 そこなんですよ。山田風太郎賞の選評で林真理子先生も本作を推しておきながら、「私は真藤さんの、日本ホラー小説大賞受賞にもかかわったのであるが、あれから10年で作品が12というのは少な過ぎではないだろうか」と苦言を呈しています。

野口 しかも今回は初の候補ですからね。「もう一作見たい」なアレがおそらくあると思います。

平尾 アレな。


 
平尾
 以上、今回も素晴らしい作品ばかりだったな。

悠木 どの作品が受賞しても、私達が生きる現代社会に一石を投じることができると思います。

野口 文芸は時代を映す鏡であってほしいですね。

悠木 皆様にも是非、全作品読んで予想していただきたいですね。

平尾 第160回直木賞、発表は2019/1/16(水)夜頃!!

 


文/有隣堂 加藤泉

第160回 直木賞は
真藤順丈さんの『宝島』が受賞しました!

真藤先生、おめでとうございます!

『宝島』
真藤順丈/講談社/1,850円+税
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平尾さんの「こっちを本命にしたほうがいいんじゃないか?」がまさかの的中!

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