2冊目のエッセイ『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』(秀和システム)刊行記念、新井見枝香さんのトークイベント。
新井さんが執筆された文庫解説のお話と、ゲストにもご登場いただいた後編です。
開催 | 2019/3/22(金)19:00~ |
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会場 | 有隣堂アトレ川崎店 店内 |
※このイベント後に新井さんは転職されて、2019年5月からはHMV&BOOKS 日比谷コテージにお勤め予定。
解説の新井さん
――新井さんはいろいろな本に解説を書いていらっしゃいます。あちらの棚に「新井さんが解説を書いている文庫」のコーナーをご用意しました(2019年3月末で終了)。
しかも手書きのPOPを書いてくださっていて。力強い直筆ですので見ていただきたいです。
新井見枝香さん(以下敬称略、新井) 畠中さんの中ではシリーズ外なので、読んでる人、少ないと思います。江戸時代の本屋さんが作家とのやり取りをどうしていたかとか、そういう話だったので私に白羽の矢が立ったんですけど。
解説らしい解説じゃなくて、小説の続きみたいな解説を書きました。
新井 中山七里さんの小説の中では珍しく、何ていうんだろうな、中山七里さんの主張がある小説だったので。
この解説に対する批判がすごくって、会社宛てに大変なクレームが来ました。でも私は間違ってないと思ってます。
これは子宮頸がんワクチンで副作用が出た人の話なんですね。もちろん、そういうこともあるかもしれない、ないかもしれない、言いきれないですけど、それを分かったうえで物語の続きを書いたところ、フィクションを理解してもらえなかった。フィクションを読み慣れていない人は、書いてあることを全部“書いた人の考えだ”っていうふうに読んでしまうんですね。難しいなって思います、小説っていうのは。
新井 これはショートショート。解説というか、巻末の対談に出てるんですけど。
中に「男をつかむ」っていう一編があって。まさに “みえか” っていう名前で出ています。おもしろいです。フィクションですよ!
新井 小説ではなくて、ビジネス書などを書く方なんです、川上徹也さんって。
この本の内容を全て実践したところ、解説が一番おもしろくなってしまいました(笑)。
新井 これは一番最初に解説ってやつを書いた、ちょっと特別な本です。
最近書いてないですねぇ、越智さん。どえらい悪女の話なんですが、非常におもしろいんです。また書いてほしいな。
――こちらは新井賞。直木賞よりも売れることもあるという、新井さんが独断で決めた “今年一番” です。
新井 『ダルちゃん』はコミックということで、爆裂売れています。うれしい。ぜひ読んでみてください。
すごい不思議なのが、お店にいると「ダルちゃん読みました!」って、まるで私が書いたかのように声掛けてくれて(笑)。
新井さんと、良い子の山本くん
――本日は新井さんを応援したいというゲストの方もお越しくださいました。大盛堂書店の山本亮さんです。山本さんは “良い子の山本くん” として『この世界は思ってたほど~』に登場されています。
新井 堂が揃いましたか? 三省堂、有隣堂、大盛堂。
山本 3堂ですね。そこの裏手でずっと待ってて、秀和システムさんの業界シリーズを熟読していました。ぜひ読んでください。いい本なので。
何の話しようか。新井さんは最近デートとかしてるんですか?
新井 (笑)全然ないです、そういったことは。
山本 なんか目が泳いでますよね?
新井 えっ何? そんなことないです。してないですよ。
山本 モテないモテないって書いてあるじゃないですか、この本。なんかビジネス非モテみたいな感じがするんですよね。絶対、裏で何かあるんですよ。
新井 直近でいえば、この前「書店員・新井のラジオ」っていうのをニッポン放送でやりましたけど、町屋良平さんっていう芥川賞作家さんが来てくれたわけですよ。このクソ忙しいときに。つまり私のために来てくれたと思ったのに! でも、私がエンディングを録ってる間に、町屋さん、帰ったんですよ!
山本 このトークイベントのために、先週、新井さんとちょっと遊んだんです。
――デートですか?
山本 違います。取材です。川越に遊びに行こうって話になって。いろいろと聞き出して会場で暴露してやろうという黒々とした野望があったんです、私には。
そしたら新井さん、2時間ぐらいしたら「帰るよ」って帰っちゃったんですよ。
とっとと帰りやがってー! もっと引き出してやろうと思ったのに!
新井 帰って、そのあとストリップ行った。
山本 どこの?
新井 あれ、どこ行ったっけっな? ロック座だ。ロック座に行きました。
なんていうか、「帰る」と思ったら帰るし、「いやだ」と思ったら嫌というふうにして生きてるので。あのときは「帰る」。考えたらひどいですよね。
山本 ひどいですね。基本的に新井さんって、なんて言ったらいいのかな、ムラっ気のある腕白坊やみたいな。そう考えると、べつに僕はムカついたりはしないですけど。
たぶん、この会場の中にも新井さんとデートしたいって方はいらっしゃると思うんですが――
新井 いないな。ん? いま、あそこの後ろのひとが。あなたですよっ。眉間に皺をよせてっ。「ないな」っていう顔をした。ちゃんと見てるから私。
山本 そういうツッコミがあるから駄目なんですよ。
新井 みんなのこと、ちゃんと見てるから!
――『この世界は思ってたほど~』に、“良い子の山本くん” の象徴的なエピソードがあります。フフッと笑ってしまうやつが。
山本 あれひどいですよね。なんで実名を出すのかなあ?
“大盛堂の山本さんです”
“よくある名前だけど仮名じゃなくて本名です”
そんな補足いらんっちゅうねん。お客さんに「山本さんですね」って聞かれましたよ。
新井 すごくいいな!と思ったんです、あのエピソードは。「いいなぁ山本さん」っていう。
山本 まあ一服の清涼剤になれたなら、よかったですよ。
新井 次はもうちょっとね、いい感じでがんばりたいですね。次、あるのかわからないけど。
秀和システムの編集者さん (客席の後ろでマルを出す)
新井 マル? マルですか? 出してもらえますか? ないと家賃払えないんですよ、頼みます。
山本 俺もモデル料……。
新井 じゃあ今度ストリップご招待しますよ。
山本 わかりました。期待しております。
新井 はい、これがあの山本さんです。
――新井さんは「新井ナイト」を300回以上、山本さんも大盛堂さんで毎週のようにトークイベントを開催していらっしゃいます。
私もイベントを担当しているのでお聞きしたいのですが、お二人はそれぞれ、どうしてイベントを主催されるんでしょう? 店舗でイベントをやる意味とか、意義とか。
山本 僕と新井さんのやり方って、ちょっと違うんですよ。
新井さんって、前に出て、やって、それで相手の魅力を引き出すというやり方なんだけど。
僕のやり方は、聞いて聞いて、それで演者さんの魅力を出す。自分で言うのも何だけど、それが持ち味だと思うんですよね。
新井さんの場合は “足して” 演者さんの魅力を出す。
僕の方は “引いて引いて” それで演者さんの魅力を出す。
その正反対は、いいなあと思いますね。だからうちでイベントをやってくれているのかなって。自慢じゃないけどそう思ったりします。
新井 LIVEが好きなのでね。こうやって生きる時間って、いま共通の場にいて、同じ時間を過ごしているので。
LIVEもそうだし、ストリップもそうなんですけど、「私は時間を費やしているけど、みんなも同じだけ時間を費やしている」みたいな場がすごい好き。
みんなありがとうございます、今日は来てくれて。大事な、限りある生きる時間を使ってしまいましたが。 こんな公演に。
――楽しい時間です。
山本 楽しかったですね。
新井 よかった。
――本日はありがとうございました。
新井・山本 ありがとうございました。
(了)
新井 見枝香 (あらい みえか)さん
東京都出身、1980年生まれ。アルバイトで書店に入社し、契約社員数年を経て、正社員として文庫担当。
文芸書担当が長く、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」など、開催したイベントは300回を超える。独自に設立した文学賞「新井賞」は、同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもある。出版業界の専門紙「新文化」にコラム連載を持ち、文庫解説や帯コメントなどの依頼も多い。テレビやラジオの出演も多数。
著書に『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』『この世界は思ってたほど、うまくいかないみたいだ』秀和システム、『本屋の新井』講談社。
司会: 市川(有隣堂 店売事業本部)
編集: 本の泉スタッフ(M)