シネマ『シネマごはん』/福丸やすこ/少年画報社 思い出食堂コミックス/650円+税外部リンク 
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コンビニコミック『ひとりごはん』は、『思い出食堂』から派生した『みんなの食卓』に続く3誌目の姉妹誌です。

『思い出食堂』シリーズ中、もっとも作家さんが苦労する雑誌かもしれません。
主人公がひとりで食事するという縛りがあり、似た展開になりかねないため、正直「どうなるんだろう?」と思いながら雑誌のページをめくるわけで。

『ひとりごはん』のキャッチフレーズは「ほっとするニャ」。こちらはどきどきですニャ。

* * *

『思い出食堂』は他誌同様、新人賞を設けており、講評をまとめて読むと「こういう作品を求めてます」というメッセージがとても具体的で、おそらく、業界一明確です。
ところがハードルが高いようで、該当作なしの回が多い。
商業誌で活躍している作家さんの受賞が多いのも特徴かもしれません。

福丸やすこ先生は、「思い出食堂新人賞」に第9回で入賞後『思い出食堂』シリーズに、関西の海を舞台にした作品を次々と発表、『シネマごはん』は『海の見える台所』に続く2作目の連載です。
『ひとりごはん』No.7号(2016年7月)~No.21号(2018年11月)に14回連載されました(休載1回)。


『海の見える台所』 1巻
福丸やすこ/少年画報社 思い出食堂コミックス/650円+税
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『ひとりごはん』といえば桑佳あさ先生のほんわりした表紙絵で知られますが、創刊以来、2回だけ、違う先生が担当しました。
そのうちの1回が福丸やすこ先生で、2016年11月発売のNo.9。

また、『シネマごはん』はカラー連載も多く、全14作のうち巻頭カラーが6作、センターカラーが4作、カラー掲載率なんと71.4%。
同じ時期、連続して掲載されていた作家さんのカラー掲載率を調べると、40.0%1名、33.3%1名、13.3%3名、6.7%3名。
作品の人気か編集チームの期待か、私たち読者は知る由もないのですが、特別な作家であることがわかります。

* * *

物語は、映画ファンの町野あかりが、映画や映画の中の食べ物の記憶を通して、自分をみつめなおし成長していくお話です。
そのため、映画作品そのものや俳優や監督・スタッフの薀蓄や感想を期待するとがっかりするかもしれません。
とりあげられている個々の映画のことは、ひとまず置いておき、読者がいろいろな映画を見た時の環境の記憶が『シネマごはん』とリンクしたとき、じわじわ感動がわきあがってくる、そういう作品です。

映画は、環境で見え方が大きく変わりますよね。テレビで見たか、録画だったか。劇場での鑑賞だって、いっしょに笑ったか、それとも人の気配がしないくらい静かだったか。
そして、誰と見たか―――

映画の話に戻りましょう。ご年配の方で、『シネマごはん』の映画作品リストをご覧になった方は、お気づきだと思います。
昭和から平成にかけて、毎週テレビで映画を見ていた方が『シネマごはん』で取り上げた映画作品リストを見ると、記憶スイッチが作動するので、いてもたってもいられなくなります。
これは、あかりさんのおじいちゃんのせいです。
取り上げられた作品のおよそ半分は、かつて21時になると、なんども放送された、おなじみの作品です。
そのため、読者の記憶がおじいちゃんの記憶とリンクし、作品の深みが増すのですが、説明がむずかしい。
 
あかりさんは、ご両親が共働きで手がかけられないため、自由人のおじいちゃんに育てられました。
あかりさんにとっておじいちゃんは、とても大切な人です。
『シネマごはん』は、おじいちゃんが亡くなった二週間後、押入れから出てきた、遺品のテレビ映画を録画したVHSビデオテープからはじまります。
おじいちゃんの思い出があかりさんをささえます。
 
最後に、雑誌だと「読み切り」なので気がつかないけれど、単行本で通して読むと年齢や年号にシビアなことがわかります。
年表にしてみると、家族の背景や主人公の人生の節目が見えて、ある節目などは一時期に集中してるので、あかりさんの心にダメージを与えていたんじゃないかな、なんてことにはらはらしたり……。

文/ 藤沢店・H.O
 

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