生き物の死にざま『生き物の死にざま』/稲垣栄洋/草思社/1,400円+税外部リンク 
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昔から不思議に思っていることがあります。
なぜセミは7年程も地中に幼虫として生きているのに、成虫になって夏の風物詩の鳴き声をあげるようになってからは、1週間足らずで死んでしまうのだろうかということです。
まるで他の生物たちに夏が来たぞーと告げるように鳴き、秋が来るといつのまにかいなくなってしまう。
もちろん死んでいるのであって、道端に仰向けで死んでいるセミを見た記憶は誰にでもあると思います。
人間的に言えば理不尽であり、謎でもあるのですが、生命科学という点では、種を残すために文字通り、命を懸けて全力で生きた結果であるということをこの本に教えてもらいました。

著者は植物を専門とする科学者であり、そのせいか昆虫や小動物を多く紹介しています。
全29話のその死にざま描写は壮絶です。
種の保存と繁殖のために繰り広げれる行為を客観的に述べ、人間的な部分をなるべく排除しています。

自分の子供たちの為の最初の餌になるハサミムシの雌、雌に食われながら交尾をやめないカマキリの雄、成虫としては1時間しか生きられないカゲロウなど、少々読み進めていくのが辛くなってしまうのですが、叙情的なイラストと、時々入る生き物側にたったやさしい言葉は先も読んでみたいと思わせてくれます。

セミに話が戻りますが、死が近づくと足の関節の麻痺により、ひっくり返ってしまうそうです。
更にセミの目は複眼で広くは見れますが、上しか見られない仕様なので、最後に見る光景は地面のみになります。
人間なら空や天井を見て死にたいと感じるでしょうが、著者はこう書いています。

---幼虫時代の故郷は土の中であり、セミにとっては故郷を見ながら死んでいくとも言えるかもしれません。---

文/ セレオ八王子店・to

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