『サキの忘れ物』/津村記久子/新潮社/1400円+税
短編集。
短編は、あたりまえだが短いので人の一生など描けない。
生きている人のある出来事、一情景、人生の断面みたいなものを手渡してくれる。
そしてこの短編集には、心ひかれる情景、ありそうでなさそうであってもよさそうな出来事、
そう、こんな場面で人の心はこう動くかもしれないね、と思うような物語が並んでいる。
「サキの忘れ物」
病院の喫茶店でバイトをしている女の子が、お客様の忘れ物の本を読む。
その本の持ち主と話をするようになり、高校を中退し、何をしていいかわからなかった女の子の心に方向性が生まれる。
「河川敷のガゼル」
ぱっとしない町の河川敷に、ガゼルが現れる。
テレビで紹介され、記事になり、見物の人もやってくる。
町はガゼルの町興しを考える。
主人公はガゼルの警備員に雇われた、大学生。警備に立つうちに、見物人の何人かと言葉をかわすようになる。
ガゼルの記録をする女性。不登校で遠くから、ガゼルを見にやってくる少年。
最後、ガゼルは少年の前で上流に向かって、駆け出す。
「隣のビル」
働いているビルの、隣のビルの、入り口も知らない。
ただ窓から見える、隣のビルの一室の様子を折々ながめる。
ある日、仕事で嫌なことがあったとき、出来心で窓から隣のビルの屋上に移ってしまう。
そして、隣のビルのながめていた部屋の人と、ことばをかわす。
他に、幾通りもの読み方ができる短編があったり、名所案内の形式で綴られる物語があったり、バラエティもある一冊です。
文/



