


なにか知見が得られないか、心の準備のつもりか、このご時勢、パンデミックものをつい手に取ってしまう。
天平の平城京を襲った天然痘は、時の権力者であった藤原4兄弟から身寄りのない孤児たちまで容赦なく命を奪った。
物語は猛威を振るう流行り病に翻弄される複数の医療者の目線で描かれる。
その中で面白い(と言っていいのか)立ち位置に居るのが、諸男という男だ。
庶民の出から叩き上げで天皇の侍医にまでになった優秀な医師だったが、同僚に陥れられて投獄され、文字通り泥水をすするどん底生活の末、恩赦により出獄を果たす。
その後獄中で出会った詐欺師、宇須と行動を共にし、疫病の渦中、よりによってインチキのまじない札を病に効くとうたって売りさばく一味となる。藁にもすがる勢いで人々はお札に群がり見る間に一大新興宗教の様相となるが、収まる気配のない疫禍に民衆の不満は膨れ上がり……。
諸男は世を呪うあまり冷めた目で疫病に狂奔する人々を見つめているが、やがて否応なく病を癒す医師だった自分と向き合うこととなる。
激しい葛藤の末に彼の行き着く先を見届けてほしい。
文/

