


現代アメリカの小説が好きでさまざま読んできましたが、日本人には非現実とも思える悲劇や事件を通して心を変容させたり、成長させたり、旅したりする小説が多いなあと勝手に感じてきました。
人の苦悩もよろこびも、幸福もかなしみも、国が変わろうが人種が違えども、変わることはないはず。ただ日本の小説とは描き方が違うなあ、と。
人間の内側が深く描かれていなくても、知らない大きな世界を旅するような気分になれることが私にとっての現代アメリカ小説の魅力でした。
「ひとりの双子」は人種をめぐる物語が通底にありますが、自分の出自に苦悩する双子以外にも、自分の生を生きるためにあがく数々の人物が登場します。
自分らしい人生のために自分を偽らねばならないこと、隠すこと、孤独にならざるを得ないことがある。そうまでして懸命に生きる人たちの姿が胸を打ちます。
ありのままで生きるとは、なんて難しいことなのか。
双子のデジレとステラ、それぞれの娘のジュードとケネディ。
彼女たちの半生を旅しながら、人種や性、貧困やマイノリティなどについて考えさせられます。すごく詳しいわけではないけれど、これまでの現代アメリカ小説とは一味違うなあと読みながらずっと思っていました。
彼女たちの半生を旅しながら、人種や性、貧困やマイノリティなどについて考えさせられます。すごく詳しいわけではないけれど、これまでの現代アメリカ小説とは一味違うなあと読みながらずっと思っていました。
登場人物が出来事や悲劇に翻弄され、いつしか違う場所に立っている、というだけの物語ではない。「ひとりの双子」の彼らはみな、自分とよく向き合います。
自分の心に落ちていき、深く考え、とても自覚的に人生をたゆたっていく。
解決などないことが人生には多いけれど、例えどうにもならないことであっても、感じ、考える心が、人を、人生を豊かにしていく。
知らない大きな世界を感じさせてくれながら、こんなにも心を深堀っていく小説が、今後どんどん生まれていくとしたら、現代アメリカの小説をますます好きになりそうです。
【有隣堂PayPayモール店でも販売中】
『ひとりの双子』
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