815『苦界浄土』/石牟礼道子/講談社/836円(税込)外部リンク 
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今まで読んだ何にも似ていなかった。
ノンフィクションではないことがまず分かった。
一人の人間に流れ込み、自らも掴み取りにいった景色を、思念を、小説という形に変えて、差し出してくれたもの。

だから景色を、思念を受け取った。
賜物、という言葉が浮かぶ。
本当にはわからないもの、「見た」ものにしかわからないこと、がたくさんある。
自分がいかに何も知らないかを思い、愕然とする。
石牟礼さんは、でもあまりくよくよさせてくれない。
受け取ったものを心に住まわすこと、そうせざるをえない強さがあり、無知の恥ずかしさより受け取れたありがたさに胸が詰まる。
愚かさに蓋をせず、考える続けることの大切さを教えてくれるよう。
水俣病の人に会ったことはないけれど、死を目の前にした人の、皮ばかりとなった身体、でも温かい身体、皮膚に張り付いた悲しみを私は知っている。
病や死と対峙したことがある人は石牟礼さんの景色とつながって、人間を思うだろう。境遇、社会、時代...を思うだろう。

それでも日が昇り、明日が来る、その絶望、希望を思う。
解釈を求めるほどに遠ざかりそうな石牟礼さんの思念を、もう少しこのままの形で、心に住まわせておきたい。
そして、受け取ったものを考え続けたい。

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