『街とその不確かな壁』/村上春樹/新潮社/2,970円(税込)
『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』は読んだそばから忘れてしまう特別な小説で、ずっとその理由にうまく説明がつけられなかった。
ただ言葉のリズムを楽しみに行っている、私にとって心地よい音楽みたいな小説なんだと思い、繰り返し読んできた。
ただ言葉のリズムを楽しみに行っている、私にとって心地よい音楽みたいな小説なんだと思い、繰り返し読んできた。
今回これを読んで、『百年の孤独』や『愛と精霊の家』『ホテル・ニューハンプシャー』を読んだ時も同じ種類の音楽を聴いていたんだと分かった。魔術的なのだ。
傷ついた箇所を身体を丸めて守るための、どこに行っても自分しかいない隠し部屋のような場所。
からりと乾いて薄暗い場所を思わせる音楽。
からりと乾いて薄暗い場所を思わせる音楽。
一人の作家が一生のうちに真摯に語ることができる物語は限られていて、手を変え品を変え様々な形に書き換えていくだけと言えるかもしれない、と春樹さんは言う。
この物語も『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』も、その前にも後ろにも下にも上にも無限の物語が広がっていて、その中の一つの現れにしか過ぎない。
言葉にすると当たり前だけど、そんな、小説のもつ魔法のような真実、すばらしさをすごく描き切ってくれたような気がして、読み終わってうっとりしている。
言葉にすると当たり前だけど、そんな、小説のもつ魔法のような真実、すばらしさをすごく描き切ってくれたような気がして、読み終わってうっとりしている。
今回も音楽に合わせて丸まって傷をいやし、かさぶた程度のものだけど、自分の一部をその世界に預けてきた気がする。また行かなくちゃ。